ファイナンス 2023年4月号 No.689
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*1) 2023年3月10日時点。*2) パリクラブは、債権国が保有する「公的債権」で、かつ、債務国側にとって「公的債務」に分類される債務を債務再編の対象として取り扱う。具体的には、債権国政府自身もしくは政府の監督・所管下にある公的機関の債権(公的債権)のうち、債務国政府への貸付もしくは債務国政府が保証を付す等債務国政府の影響が及びうる組織(国営企業等)等への貸付(公的債務)が対象となる。日本の場合は、国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)、日本貿易保険(NEXI)が保有する債権が公的債権の対象に含まれる。 42 ファイナンス 2023 Apr.「パリクラブ(主要債権国会合)」とははじめに2022年10月28日、午前4時過ぎ。パリにあるフランス経済財政産業デジタル省(以下、「仏財務省」)の国際会議室に、アルゼンチン政府高官及びアルゼンチンに公的債権を有する各国政府の代表団が集まっている。前日昼に開始した債務再編交渉は16時間を超え、間もなくパリは夜明けを迎える時間帯ではあるが、各国代表団は感慨深けにアルゼンチンとの合意文書に署名している。「パリクラブ」でのアルゼンチンの債務再編交渉が妥結した時の光景である。「パリクラブ」とは、公的二国間の対外債権を有する先進国による非公式な集まりである。この任意の債権者グループは、特定の債務国が何らかの理由で債務の返済ができなくなった場合に、統一の条件で債務再編措置(債務の繰延や削減)を取り決めている。今日、中国等の新興債権国や、ユーロ債券保有者等の民間債権者が、低・中所得国への主要な貸し手として存在感を強めており、伝統的な先進国の集まりである「パリクラブ」の動きが注目されることは少なくなってきたように思う。そうした中、今般のパリクラブの交渉相手のアルゼンチンは、G20の一角を占める、経済規模も決して小さくはない主要な新興国であり、こうした国の経済が安定することは国際金融の安定性の観点からも重要である。また、アルゼンチンにとっても、国際金融市場における信頼の回復を確実ならしめるには、パリクラブとの延滞債務問題の解消が極めて重要な通過点であった。個別の具体的な交渉のやり取りについて詳細をつまびらかにすることはできないが、本稿では、今般のアルゼンチンとの交渉を、現場の雰囲気も含めて振り返ることで、パリクラブの債務再編の基本的なメカニズムや実情についての具体的なイメージを持ってもらうと共に、今後、公的債務の効率的かつ迅速な再編をどのように実施していくことができるのか、そのヒントとなる論点について、検討してみたい。なぜ我々が、アルゼンチンとの交渉のために、ブエノスアイレスではなく、フランス・パリに集まっていたかというと、「パリクラブ」という名が示す通り、この債権国グループは、1956年の初回会合をパリで開催して以来、パリで関連する会議や交渉を行うことを慣行としているからである。パリクラブの議長と事務局は、仏財務省が務めている。パリクラブ事務局には、事務局長(仏財務省の課長級職員)の下で、複数の専属の事務局員(仏財務省職員)が従事。1956年以降、パリクラブが債務再編を実施した債務国は102か国、合意件数は478件、対象債務は6,140億ドルに上る*1。仏財務省の敷地には、国際会議等のイベント用の2階建ての専用の建物がある。この中には、大中小の各種会議場スペースがあり、パリクラブの会議はこの中で行われている。パリクラブは、公的対外債務*2の返済に行き詰まった債務国の要請を受けて、当該国を交渉に招き、債務再編措置を協議し、双方にとって受け入れ可能な、持続的な債務返済スケジュールへの合意を目指す。パリアルゼンチンの債務再編と今後の債務問題の展望(債務再編交渉の現場から見た債権国間の協調)国際局開発政策課 開発金融専門官 小荷田 直久

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