米国連邦予算制度について ファイナンス 2023 Apr. 41投じる議員を確保するための1つの手段として、議員の関心のあるプロジェクトに予算をつけるイヤマークという手法があります。例えば、地域振興予算枠のうち、10万ドルをアンカレッジ市の施設に充てるといった個別具体的なものです。このプロジェクトへの予算を支持した議員は、予算案に賛成票を投じることとなります。イヤマークに利用については、民主党、共和党での考え方の違いや、議員の当選回数による影響が見られます。1995年に共和党が民主党に替わって議会多数を占めた際、共和党は、歳出増に繋がるイヤマークに批判的だったことから、イヤマークの件数が減少しました。しかしながら、その後、共和党が議会多数を占める時期が長期化するに従って、このような共和党の方針に変化が現れました。一般的に、初当選した議員は歳出削減に意欲的ですが、当選を重ね、歳出に影響力を行使できるようになるにつれて、全体的な歳出削減を求めたとしても、議員に関連する案件に関しては歳出を求めるようになります。共和党も1995年に民主党から上下両院の多数派を勝ち取ると、2006年までの10年間、2001年から2002年まで上院多数党が民主党となったのを除き、ほとんどの期間、両院での多数派を維持しました。その結果、共和党も多数派としてイヤマークを活用することの魅力に抵抗できなくなり、イヤマークに対する共和党と民主党との立場の違いがなくなりました。その結果、1996年には一端減少したイヤマークの数が、その後増加に転じ、2004年には、民主党が多数派を占めていた1994年の3倍以上のイヤマークが行われることとなりました。おわりに2023年9月末までの米国2023年度予算は、今年1月にすでに実質的な債務上限に達しています。今のところ、米国財務省の「非常手段」によって債務不履行は免れているものの、このような手段によっても夏前には債務不履行となるおそれがあります。その場合、2008年のリーマン・ショックに相当する世界的な金融危機に陥ることも危惧され、早期に米国議会が債務上限を引き上げることが求められています。他方、昨年の中間選挙で、民主党のバイデン大統領は、下院の多数派を共和党に奪われ、下院で債務上限を引き上げる法案を可決するためには、共和党との調整が不可欠となりました。共和党は、債務上限の引上げの条件として、財政赤字削減を求めていますが、バイデン大統領は、これを拒否しています。債務不履行を避けるため、今後、大統領と議会との間での調整が本格化することが見込まれますが、その際、上記のような米国予算制度における大統領と議会との関係を参考としていただければと思います。
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