ファイナンス 2023年4月号 No.689
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新たな国家安全保障戦略等の策定と令和5年度防衛関係予算について ファイナンス 2023 Apr. 31(5)防衛省による概算要求(6) 国力としての防衛力を総合的に考える 有識者会議(7)財政制度等審議会建議(8)財務大臣・防衛大臣協議と総理指示令和4年8月末、防衛省から財務省に対して令和5年度概算要求が提出された。防衛省は、スタンド・オフ防衛能力、総合ミサイル防空能力、無人アセット防衛能力、領域横断作戦能力、指揮統制・情報関連機能、機動展開能力、持続性・強靱性等を重点分野に定め、要求金額を定めない事項だけの要求もなされた。令和4年9月には、総合的な防衛体制の強化と経済財政の在り方を主なテーマとして、内閣総理大臣が開催する「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議(以下「有識者会議」という。)」が設置された(この有識者会議とは別に、NSS・外務省・防衛省等の関係者は、同年1月から17回にわたり、政府外の有識者との意見交換を実施。)。有識者会議では計4回にわたる議論を経て、同年11月22日に報告書が取りまとめられ、佐々江賢一郎座長から総理に手交された。報告書では、研究開発、公共インフラ、サイバー安全保障、国際的協力の分野において、あらゆる能力を、国力としての防衛力という観点で総合的・一体的に利活用すべきであり、防衛力の抜本的な強化とそれを補完する総合的な防衛体制の強化の適切な連携が確保されるようにすべき、と指摘している。また、「海外依存度が高いわが国経済にとっては、エネルギー等の資源確保とともに、国際的な金融市場の信認を確保することが死活的に重要」であり、「有事における我が国経済の安定を維持できる経済力と財政余力がなければ、国力としての防衛力がそがれかねない点にも留意が必要であり、その意味で、防衛力の抜本的強化を図るには、経済情勢や国民生活の実態に配慮しつつ財政基盤を強化することが重要である」と提言している。具体的な財源については、まずは歳出改革により財源を捻出していくことを優先的に検討すべきであり、なお足らざる部分については、国民全体で負担することを視野に入れ、国債発行を前提とせず、負担が偏りすぎないよう幅広い税目による負担が必要なことを明確にして、理解を得る努力を行うべき、と指摘された。令和4年11月29日に公表された、財政制度等審議会の「令和5年度予算編成等に関する建議」は、「とりわけ「中期防衛力整備計画」は向こう5年間の装備品取得計画を含むことから、特に財政面に与える影響が大きい」と指摘した上で、以下の論点について議論を尽くし、結果を明らかにする必要がある、としている。・アメリカを中心とした同盟国・同志国との連携を前提としているか・防衛力の抜本的強化に向け、各重点分野間の縦割りを排除し、具体的な効果及び効果の最大化が見込めるか・具体的な事態を想定し、費用対効果の高い装備品・研究開発等を優先しているか・地元調整を含め現実的に「5年以内」に配備可能か・研究開発事業は、緊要性・優先度を考慮しているか・防衛技術・産業基盤について、世界で通用する強みを追求した持続的な発展に向かっているか・国力としての総合的な防衛力を強化するため、防衛省のみならず関係省庁の施策・資源を活かしているか・既存事業の見直しを含め、防衛省自身が十分に効率化・合理化を図っているか財政当局としては、これらの指摘についても的確に反映すべく所要の調整を図った。有識者会議の報告書が総理に手交されたのと同日、政府与党政策懇談会が開催された。この会議において、総理から、防衛力の抜本的強化に向け、関係大臣間で調整を加速する旨の発言があったことを受け、財務大臣と浜田防衛大臣が直接面会し、協議が行われた。両大臣の協議では、財務大臣から、・ 安全保障環境が厳しさを増す中、防衛力の5年以内の抜本的強化は我が国にとって極めて重要であること、・ 次期中期防の内容について実効性や実現可能性の観点から精査していく必要があること、・ 防衛力の抜本的強化を前提に、必要となる国民負担は出来る限り小さくなることが望ましいことといった点を伝えた上で、今後、防衛大臣とよく調整していきたい旨発言した。

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