ファイナンス 2023年4月号 No.689
33/102

ファイナンス 2023 Apr. 29主計局主計官 渡辺 公徳筆者自身、担当主計官として、これまで、有識者の方々から幅広く意見を伺いつつ、防衛省や国家安全保障局(NSS)を中心とする関係省庁と議論を積み重ねてきた。その際、必ずや後世の検証に遭うことを意識し、先人から託された過去の教訓に学び、今を生きる世代と将来世代の双方に対して責任ある議論を進めるべく取り組んできた。結果的に大幅な増額となった防衛費の取扱いや、これを裏付ける財源に関する政府の決定について、より説明が必要といった声もあると承知している。本稿では、これまで、政府において、どのような議論が行われ、決定し、国会等を通して国民の方々に説明してきたか、改めて整理したい。我が国の防衛関係費について、これまで「GDP1%枠」により抑制されていたという見方があるが、必ずしもこれは正確でない。実際に政府として枠を設定したのは、昭和51年の三木内閣における「GNP1%」枠である。この枠は昭和61年12月、中曽根内閣によ0.はじめに令和4年12月に策定された「国家安全保障戦略(以下「安保戦略」という。)」、「国家防衛戦略(以下「防衛戦略」という。)」、「防衛力整備計画(以下「整備計画」という。)」により構成される「三文書」の策定、そして、年末の令和5年度予算編成における防衛関係費の取扱いは、我が国の安全保障や国防の在り方を大きく変える歴史的な転換点になったと言われる。1.安保戦略等の見直しの経緯(1)「三文書」見直しの開始り撤廃された。それ以降の防衛力整備は、長期的な防衛力水準の在り方を示す「防衛計画の大綱(以下「防衛大綱」という。)」の下で、5年間にわたる主要装備品を含む防衛力の整備計画を示す「中期防衛力整備計画(以下「中期防」という。)」に沿って継続的・計画的に実施されてきた。令和元年度から令和4年度予算までは、平成30年12月に策定された中期防に基づき、防衛関係費が編成された。この中期防は、令和5年度までの計画であった。しかし、北朝鮮の弾道ミサイルの発射、周辺国の一方的な現状変更の試みの深刻化など、我が国周辺の安全保障環境が急速に厳しさを増す中、令和3年10月8日、国会での岸田総理所信表明演説において、1年前倒しで「三文書」の改定に向けた議論を始めることが示された。これ以降、国家安全保障会議四大臣会合(出席者は基本的に、総理大臣、官房長官、外務大臣、防衛大臣、財務大臣。)を中心に「三文書」改定に向けた論点整理が進められた。さらに、同年12月6日の国会での総理の所信表明演説では、「あらゆる選択肢を排除せず現実的に検討し、スピード感をもって防衛力を抜本的に強化」することや、「三文書」を概ね一年かけて策定することが明言された。こうした表明を受け、同月の国会においても中長期的な防衛費の在り方について議論がなされ、総理からは、「何よりも大事なことは、国民の命や暮らしを守るために必要なものは何なのか、こうした現実的な議論をしっかりと突き詰めていくこと。防衛費についても、金額あるいは結論ありきではなく、現実的な議論の結果として、必要なものを計上していく」旨説明している。新たな国家安全保障戦略等の策定と 令和5年度防衛関係予算について

元のページ  ../index.html#33

このブックを見る