ファイナンス 2023年3月号 No.688
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[プロフィール]2010年に一橋大学において博士号(商学)を取得。その後、南山大学講師、同准教授等を経て2017年より中央大学経済学部准教授(現職)。主に国際金融論を研究。2022年より財務総合政策研究所客員研究官。 88 ファイナンス 2023 Mar.(2)吉見太洋准教授安藤:吉見先生は輸出入企業が貨物代金の決済に使用する取引通貨の選択に着目した研究をしてこられましたが、何故輸出入申告データを研究に活用することが重要だと考えておられるのでしょうか。吉見准教授(以下、吉見):私達の共同研究チームは主に、企業が貨物代金の決済に採用する通貨、すなわち貿易建値通貨をどのように選択しているのかという点に着目して研究を進めています。例えば日本の企業が貨物を輸出する際に、代金が円で取引される場合や、相手国通貨で取引される場合がありますが、前者の場合は相手国企業が為替変動のリスクを負い、後者の場合は日本企業が負うことになります。したがって、企業にとって建値通貨の選択は、貿易取引に伴う為替リスクを誰が引き受けるのかを決める大変重要な契約事項と言えます。また、為替変動に対して、企業が貿易価格をどのように調整しているのか(いわゆる「為替パススルー」)、についても研究を行っています。為替パススルーは建値通貨の選択とも深く関わっています。例えば、日本常勤の研究者のみデータを利用できることとされていますが、対象者の範囲を広げる等、利用のハードルを下げていくような検討もあっていいのではと思います。時間という観点では、財務総研の敷地においてのみデータが利用可能とされています。その結果、研究に没頭できる夜間や休日の利用が難しいと感じています。また、東京近郊に拠点のない研究者はそもそもデータにあたる時間の確保が難しく、データの利用に踏み切り難い側面があるのではないでしょうか。とはいえこれらのハードルは、輸出入申告データという情報の秘密保持の要請を踏まえたものであることは重々承知しております。今回の共同研究に参画している私としては、研究成果を上げることを通じて、社会に対してデータの研究利用から生じる有用性をお伝えすることで、データの利活用を後押ししたいと考えています。

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