ファイナンス 2023年3月号 No.688
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ファイナンス 2023 Mar. 87 PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 17*3) 国際商業会議所(International Chamber of Commerce)が定める貿易取引条件とその解釈に関する国際規則。貿易取引における、売主と買主との間での危険負担の移転時期や、運賃や保険料等の費用負担等について定められている。*4) 貨物を輸送する目的地。*5) 関税法施行令第59条の2第2項格を申告することとされている*5。安藤:笹原先生との間では、研究開始時にインコタームズ*3に関するご説明をしたことが印象に残っています。笹原:大変勉強になりました。経済学者は貿易実務の詳細を必ずしも把握している訳ではありません。税関に申告する際にFOBやCIFといった価格に換算して申告をするという実務運用もこの共同研究で学んだことの1つです。安藤:先生方はこの換算して申告をするという運用をうまく利用し、個別の取引における貿易コストを算出するという手法を考案されましたが、税関職員の観点からはなかなか思い付かないもので驚きました。これは、研究者と行政の協力から生まれた好事例だと思いましたが如何でしょうか。笹原:税関実務の説明を受けた後、改めてデータを見てみたときに、例えば輸出申告においてインボイス条件がCIFとなっていると、換算される前のCIF価格と換算後のFOB価格の双方が利用可能であるということに気づいて、これらの差を貿易コストとしてとらえることができるのではないか、という点に着目してみたものです。経済学者はデータを見てその内容を理解するという能力が身についているので、何か特別な工夫をして考案した訳ではなく、ある意味自然に見つけたにすぎません。そういう意味で、研究者にとっての当たり前は税関職員にとっては当たり前ではない、その逆も然りということかと思います。双方のある意味当たり前の知見が共有され、新たな発見につながることは、共同研究の1つの強みということなのかもしれません。*4*5吉元:今後の輸出入申告データに限らず、行政データの研究分野での利活用を推進するにあたって、何が必要となってくると思いますか。笹原:やはり、現状ではデータにアクセスできる人や時間が限られているという点が挙げられるかと思います。人の制約ですが、マンパワーという意味だけでなく例えば米国では米国国際貿易委員会(International trade committee)等の政府機関が経済学者を多数雇用しており、ある種競争的な環境で分析が行われています。米国に比べると、日本の行政機関において専らデータ分析に従事する職員の数は多くはないと感じます。輸出入申告データについても、例えば、現状では【コラム】CIFとFOBについてFOB:Free On Board、輸出国における船積み時における価格CIF:Cost, Insurance and Freight、FOB価格に加えて、仕向地*4までの運賃・保険料が含まれた価格貨物が税関を通過した時点(関税境界)における価格として、輸入申告ではCIF価格を、輸出申告ではFOB価

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