ファイナンス 2023年3月号 No.688
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Ricardo, D., (1817)“On the Principle of Political Economy and Taxation” John Murray. PublicationHeckscher, E., (1919)“The Effect of Foreign Trade on Distribution of Income”, Ekonomisk Tidskrift, 21, P..1-32Ohlin, B., (1933), “Interregional and International Trade” Cambridge:Harvard University Press.イナンス」令和3年11月号連載“PRI Open Campus 〜財務総研の研究・交流活動紹介〜”)のコラムにおいて紹介。[プロフィール]2017年にカリフォルニア大学デービス校においてPh.D.(経済学)を取得。その後、アイダホ大学商経学部Assistant Professor of Economicsを経て2020年より慶應義塾大学経済学部准教授(現職)。主に国際経済学を研究。2022年より財務総合政策研究所客員研究官。*1) 産業間の比較優位を基に国際分業が行われてきたとする伝統的な貿易論は、リカード・モデルや、ヘクシャー・オリーンモデル等をベースに築かれてきた。 *2) メリッツに代表される新進貿易理論の詳細については、吉元宇楽・伊藤麟稀・小澤駿也(2021)『税関データで何が分かるのか。』(財務省広報誌「ファ 86 ファイナンス 2023 Mar.安藤:笹原先生はこれまで国際貿易を研究されてきましたが、この度共同研究チーム内でどのような研究を担当されているのでしょうか。また、研究において輸出入申告データの利用がなぜ必要であると考えているのかを教えてください。笹原准教授(以下、笹原):私達の共同研究チームは日本の貿易実態を解明するために輸出入申告データを利用しています。チームでは産業という企業の業態に着目した分析と、港湾という企業の地理的な特徴に着目した分析が行われていますが、私は後者の港湾別の貿易実態に関する研究を担当しています。2 研究者へのインタビュー(1)笹原彰准教授国際貿易論はそもそも「貿易はなぜ起こるのか」という問いに答えることから始まった学問であり、伝統的な貿易論*1では、国という単位に着目し、比較優位(得意な分野に特化して生産する)に基づく国際分業の結果発生するものとされてきました。しかし最近では、メリッツ*2に代表されるように、国際貿易論≒企業行動論という問題意識のもと、国単位ではなくより細分化された各企業の貿易行動に関する実証研究が盛んとなっています。輸出入申告データには貿易統計のようなマクロデータからは得られない個別企業の所在情報や、利用した港や税関に関する情報も含まれていることから、利用したいと考えました。根岸:雇用等への影響を分析するためには、モノだけではなく、サービス貿易も含めて検証するという必要性も今後生じうるものなのでしょうか。また、貿易論の研究対象が国から企業に移ったとのことですが、越境電子商取引の普及等で企業だけでなく個々人が簡単に輸出入を行うことができるようになりました。海外との貿易取引と国内の売買との境目が以前より曖昧になってきているように思いますが、将来的に貿易論はどうなっていくと考えればよいのでしょうか。笹原:現在の国際貿易論はあくまでもモノの取引を研究対象としています。現状精緻なデータが少ないこともあり、サービス含め無体物の移動を把握することは極めて難しいと思います。貿易論の将来についてですが、国内の問題を検討するにあたり、貿易は議論の対象となりやすく、例えば、「貿易が国内の雇用を減らす」などとネガティブな印象で語られることが多いように思います。国という形で世界が分割され続ける限り、このような国内取引とは区別した貿易についての議論が行われ、その実態を解き明かすため、貿易について研究し議論を続ける意義は残ると思います。

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