ファイナンス 2023年3月号 No.688
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ファイナンス 2023 Mar. 83 令和4年度職員トップセミナー 講師略歴河田 惠昭(かわた よしあき)関西大学社会安全センター長・特別任命教授 阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長1974年京都大学大学院工学研究科博士課程修了。工学博士。1976年京都大学防災研究所助教授を経て、93年教授、96年巨大災害研究センター長。2002年阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター長(兼務)、2005年防災研究所長、2007年巨大災害研究センター長、2010年関西大学社会安全学部長、2012年より現職。京都大学名誉教授。多数の防災研究会等委員を歴任。国内外でその功績が認められ学術賞、功績賞を多数受賞している。(2)1755年リスボン大地震(国難災害)す。首都直下地震が起きると、首都圏全域が停電する、1か月以上に及ぶ危険がある、でもこうしたことを多くの人が知らないのです。東京電力は株式の53%を国が保有している国有会社です。福島第一原発事故後、倒産するかもしれないということで株式を政府が保有しています。現在、東京電力の発電は火力発電所の割合が91%以上となっており、その火力発電所は東京湾沿岸に集中しています。火力発電所は1カ所で一般に200万キロワット程度の発電能力がありますから、地震発生により1カ所でも運転を停止すると、計画停電を実施せざるを得なくなります。1カ所以上運転停止となると、もうお手上げ状態になることも理解していただく必要があります。今から約260年以上前の1755年にポルトガルのリスボンは地震・津波・火災が発生して、大きな打撃を受けました。この当時スペインとポルトガルとで地球を半分ずつ支配するという能力を持っていたのですが、この災害で市民の約3分の1の8万5千人が死んで、結局これでポルトガルは覇権を失いました。日本では災害文明はどんどん進む一方、災害文化はどんどん衰退しているのですが、これではダメであり、災害文明(科学)を分母にして災害文化(日常の習慣)をその上に置くという姿に持っていく必要があるのです。5.では減災の方法はあるのか?では減災の方法はあるのでしょうか? これについては、縮災(災害レジリエンス)、すなわち事前対策といった「予防力」及び復旧・復興期間短縮といった「回復力」を確保することによって首都直下地震を迎えなければいけない、ということです。縮災の構成要素である「災害文明」(公助)と「災害文化」(自助、共助)で対処するのです。結局、文化と文明を組み合わせてdevelopmentすることであり、まさにSDGsにつながっているわけです。けばよいのでしょうか?先ず、相転移現象を発見して、それを応用するという「近代科学の発達」が必要です。それだけではなく、日本国憲法に「緊急事態条項」を明記する、そして具体的な有事計画を策定する、さらに内閣防災省を創設するといった「国民文化の洗練」も必要です。今年5月には岸田総理にお会いして、「平時」から「緊急時」対応への円滑な移行と緊急財政支援を請願いたしました。「基本的人権を守る、国民の財産権を守る」という現在の憲法の枠組みの中では災害対策基本法は機能しないのです。すでに中国は最も必要な物資や技術については自給自足できるようにする「中国の要塞化」戦略を進めています。例えば14億人の人間が食べていくため大豆2年分を貯蔵しております。でもアメリカはそこまで考えていません。国家安全保障の面からもこうした国難災害に向けた対応はとても重要なのです。ご清聴ありがとうございました。6.国難災害の防災戦術と戦略最後になりますが、国難災害をどうやって防いでい(以上)

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