ファイナンス 2023年3月号 No.688
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図4 わが国はコロナパンデミックを経験して、一人当たりのGDPを増やす努力(文明的開発)と日常の習慣の洗練(文化的発展)の両者を目指すべきことを示す図 82 ファイナンス 2023 Mar.(2)文化的・文明的防災力の向上(3)貧困をなくそう=災害をなくそう(1)長期広域停電という相転移がもたらす被害相転移が東京で起こる、そして例えば長期広域停電が起きると、病院災害、輸送災害、交通災害、食料災害、情報通信災害、水道災害、都市ガス災害といった複合災害が起きてきます。そしてこれら一つ一つの複合災害に、エレベーターが止まる、交通機関が止まる等の二次、三次災害がぶら下がってくるのです。首都直下地震が起きると、長期広域停電するだけで、ネットワーク的に被害が拡大して広がることが理解できま4. 首都直下地震で発生する「災害の相転移」の例GoogleとかAmazonとかFacebookとかMicrosoftといった世界の巨大情報産業というのはネットワーク構造になっております。ですから利益が集中して独占をもたらしているのです。コロナ・パンデミックに通ずるような社会現象として理解する必要があるのです。こちらは2021年7月時点でのコロナの感染率、死亡率のデータです。日本は一人当たりのGDPが2018年当時、世界第27位でした。日本より一人当たりGDPが少ない国は全部感染率が高い。これは理解できますよね。病院数が十分にない、医療水準が十分でないといったことが背景にあるのです。科学が進歩するには、経済的に良くならなければいけないのです(文明的防災力)。ところが、日本よりも一人当たりGDPが大きい国でも感染率は高いのです。日本は感染率が一番低い。つまり経済的に豊かになっても、感染率は下がらないのです。結局日本は清潔文化が豊かであるために感染率が低いのです(文化的防災力)。一人当たりGDPが大きい国で感染率が高いところはみな移民が多いのです。ドイツはかつて6百万人もトルコからイスラム教系の移民が来ておりました。ドイツはキリスト教ですから、イスラム教系の移民が住んでいるところとキリスト教のドイツ人が住んでいるところとが混ざらないのです。こういう文化的な非融合が起こると、感染症のようなものをコントロールするのはとても難しいのです。図4は、COVID-19の感染率、死亡率と一人当たりGDPとの関係を示した図です。日本は今座標の原点の位置にありますが、本来の日本の位置はもっと右斜め下にいないといけないのです。つまり日本はもっと一人当たりGDPを増やす、そしてもっと文化的に豊かにならなければいけないのです。日本はG7諸国の中で累積感染者数も死亡者数も最も少ないのです。これは科学的開発(Science Development)と文化的発展(Culture Development)について日本がG7諸国の中で一番うまくいっているということなのです。持続的開発目標であるSDGsは、持続的開発目標(経済的に貧しい国)と持続的発展目標(経済的に豊かな国)の2つの分野に大別されますが、我が国のような先進国は開発ではなくて、発展なのです。SDGsの目標の第一は「貧困をなくそう」ですが、もともとは「災害をなくそう」にしようとしたのです。ところが、国連加盟国で災害がよく発生するのは全体の3分の1の60か国くらいしかないのです。そのため「災害をなくそう」では全会一致で採択されないので、災害が発生すると必ず貧乏になることから、「貧困をなくそう」となったのです。日本は先進国ですが災害が多く、災害が起きれば貧困になります。SDGsの第一の目標ということは一番大事な目標のはずです。ですので、「貧困をなくそう」は「災害をなくそう」と同じことだということを理解していただきたいのです。

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