ファイナンス 2023年3月号 No.688
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図2 都市の人口密度が国の10倍以上になると相転移が発生する可能性が大きくなり、犠牲者が爆発的に増加することを示す図 80 ファイナンス 2023 Mar.(8)災害は社会現象だ(1)想定外災害ではなく相転移災害(2)人口過密大都市で『災害の相転移』が発生2.なぜ被害が未曾有になるのかティブな面の課題に対してわが国は何時も無視することを繰り返しているのです。今日の講演の一番のポイントは「災害というのは社会現象だ」ということを理解していただきたいという点です。災害は自然現象だと思っていると、どうしようもないと諦めてしまいますが、英語では被害が起こらない災害のことをHazard、被害が伴うものをDisasterと区別しております。日本は言葉の定義があいまいで、いずれの場合も「災害」と呼んでいるのです。災害は社会現象ですから、被害を少なくするということは極めて社会・政治的な問題であると認識することが大事なのです。ではなぜ被害が未曾有になるのか? これが本日の講演のとても重要なポイントです。東日本大震災では、震災直後に行方不明も含めて1万6千人の方が亡くなりました。これについては「とんでもない大きな津波が来て、それによって亡くなった」と皆さん理解されているかと思いますが、実は最初に津波がやって来た岩手県沿岸でも地震が起きてから第1波の津波が来るまで約30分の時間があったのです。ですから一生懸命に避難していたら、ほとんどの方が助かっていたのです。もちろん陸前高田の場合のように18メートルの津波が来て市役所の屋上に逃げても助からなかったという例もありますが、このようにどうしようもない状況で亡くなった方というのは全体の中ではごく僅かなのです。一番大きな原因は、浸水した地域の住民は約60万人いますが、その住民の27%が避難しなかったことです。何故避難しなかったのかというと、一番多い理由が「仕事があるから避難しなかった」というものです。それから「海岸に沿って高さ5~6メートルのコンクリートの防潮堤があるので、それがあるから大丈夫だ」という理由、もっとひどいのが「気象庁の大津波警報など当たらない」という理由です。このように自分本位の判断で避難しなかったことが人的被害を増やしてしまったのです。日本は先進国ですから大きな防災力があるのです。でも「不都合なことは起らない」と考えてしまうと、それが役に立たないのです。図2は1991年に私が作ったものに最新のデータを付け加えたものです。我が国の平均の人口密度は1平方キロに約330人ですが、例えばこの図の横軸の10は「1平方キロに約3,300人」が住んでいることを示しております。図の上方に書いた曲線上にある点Kは1995年の阪神・淡路大震災時の神戸市です。点TとYは1923年の関東大震災時の東京市と横浜市です。点Mは1985年のメキシコ地震時のメキシコシティです。首都メキシコシティではこの時1万人が亡くなりました。各点をプロットするとこの曲線に乗りますよね。この図をつくった時はまだ阪神・淡路大震災は発生していなかったのですが、阪神・淡路大震災後にデータをプロットすると曲線に乗ります。この図から分かることは、沢山の人が住んでいる都市では人的な被害はとても大きくなるということなのです。ふつうはこの下方に書いた曲線に沿って人的被害が生じるのですが、都市にたくさんの人が集まっていると突然人的被害が大きくなる、下方の曲線から上方の曲線にジャンプする「災害の相転移」が起こるのです。これは私が研究して見つけたことです。私はこの図で第1回日本自然災害学会学術賞を受賞したのです

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