ファイナンス 2023年3月号 No.688
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*3) 高齢の方で、2割負担の場合には点数の8倍、1割負担の場合は点数の9倍が、国などからの支払分になります。写真 4 主計局 社会保障企画室長 神野 貴史日本の社会保障について 4 ファイナンス 2023 Mar.来年度予算の国債発行額は36兆円ですが、過去に発行した国債を期限どおり返済する資金を得るための借換国債の発行などを合わせると、年間の国債発行額は200兆円を超えています。仮に、国債発行に支障が生じるような状況に陥れば、過去発行した国債を期限通り返済するには、歳出の切り詰めだけでは全く追いつかない巨額の資金捻出が必要になることも想定されます。今はまだ幸いなことに国債発行の多くを国内で賄えていますが、経常収支の黒字幅は小さくなっていますし、国庫短期証券については半分以上を海外に保有されています。最近でも海外投資家による多額の日本国債売りやそれに伴う国債金利上昇がニュースになっています。「国内で保有されているから大丈夫」と安心できる状況ではないと思っています。大沢補佐 日本銀行が保有している分を除いて、国債・国庫短期証券の海外保有割合を見てみると、10年前は10%程度だったのが、いまは25%を超えてきている状況であり、マーケットにおける存在感は大きくなってきていると思います。古市憲寿さん やはり、国債発行が無限にできるということではないし、返していくのもそう簡単ではないということですね。個人的にも、もし魔法の解決策があるなら他の国も実施しているはずだし、そんな都合のいいことはないと思っています。財政や財務省についてネットなどでは色々と批判も多いですよね。予算が有限という制約がある中でバランスを取ってどう国家を運営していくかというのが大事な視点だと思うのですが、それがないがしろにされてしまっている気がします。こうした状況の中、社会保障は持続可能なのでしょうか。神野室長 古市さんが暮らしていたノルウェーと比べると分かりませんが、まず伝えたいのは、日本の医療制度がとても充実していることです。例えば、1,000万円を超えるような高額の医療を受けた場合でも、個人負担には上限が設けられており、所得の低い方は数万円の負担で済むような仕組みになっています。有利主計官 高額医療もそうですが、それ以外の通常の医療においても、69歳までの場合なら本人の負担は3割となっていますので、残り7割は税金・国債と保険料で賄われていることになります。自分の例を挙げると、最近鼻炎になったので病院に行ったのですが、そのときの領収証を見ると診察代387点と薬代362点、合計では749点となっています。この1点は10円を意味するので全部で7,490円かかっているのですが、話を端折って簡単に言うと、この点数(749点)を7倍すれば国などから払ってもらっている額が分かります*3。私の場合、国などから払ってもらったのは5,240円で、そのおかげで自分の財布からの支払いは2,250円で済んでいることがわかります。こうした身近な計算をしていただくことで、公的な仕組みにおける受益と負担について考えていただくきっかけにしてもらえればと思います。大沢補佐 アメリカでしばらく生活しましたが、保険制度が民間保険によって分断されていて、あらためて日本の医療保険のすばらしさを実感しました。安い自己負担で、必要な時にアクセスできる今の日本の制度は、空気のように当然の存在ではなく、破綻しないように皆が努力して手直ししていかなければいけないと思います。

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