ファイナンス 2023年3月号 No.688
73/106

ファイナンス 2023 Mar. 69 〈リスク〉〈政策課題・政策提言〉また、第4章で重点的に取り上げているように、小国経済は、総じて観光業への依存が極めて高いなど経済構造の多様化が進んでおらず、生活必需品や資金の対外依存度の高さ、債務水準の高止まり、そして自然災害や気候変動の影響を大きく受ける点など、外生的なショックに脆弱な経済構造である点が特徴的と言えます。こうした要因により、小国はパンデミックによりとりわけ深刻な打撃を受けていますが、ロシアによるウクライナ侵攻や世界的な金融引き締めの波及的影響により、更に回復が遅れることが懸念されています。今回のGEPの基本シナリオでは、世界経済は辛うじてリセッション入りを回避可能と予測されていますが、様々な景気の下振れリスクが強まっています。具体的には、(1)インフレの一層の高進・長期化、(2)金融引き締めによる金融セクターのストレスの高まり、(3)主要国経済の不振の深刻化、(4)地政学的な緊張の更なる高まり、などが挙げられ、こうした更なる景気下押し要因が発現した場合、世界的なリセッションに陥ってしまう可能性を高いことを意味します。このように世界経済の不確実性が高まる中、今回のGEPでは経済モデルを活用した代替下方シナリオ、「景気急減速シナリオ(sharp downturn scenario)」、及び「世界的景気後退シナリオ(global recession scenario)」を用意することで、こうした景気の下振れリスクについて警鐘を鳴らしています。世界経済がリセッションに陥る可能性や、新興国・途上国が債務危機に陥る可能性を少しでも低減し、気候変動や食糧危機といったグローバルな課題に対処していくためには、世界レベルでの政策協調が喫緊の課題です。パンデミックや、高インフレへの対処のため財政・金融両面で政策余力が狭まる中、財政政策に関しては真に支援を必要とする脆弱層に的を絞った支援を実施すること、金融政策に関してはインフレ期待の過度の高まりを未然に防止し、金融セクターの強靭性を維持することなどが短期的な政策優先事項と言えます。特に新興国・途上国においては、債務水準が高止まりし、エネルギーや食糧へのアクセスが脅かされてい 6 おわりに2020年夏の着任以来、僅か2年半の間でも、COVID-19パンデミックによる甚大なショックとそこからの回復、40年来のインフレ高進とこれに対応する急激かつ世界同時的な金融引き締めなど、世界経済の情勢は目まぐるしく変化しています。本稿が掲載されるころには6月上旬に発表予定の次のGEPに向けての準備作業が始まっているものと思われます。足元、欧州では暖冬による天然ガス価格の低下という明るい材料はありますが、中国での新型コロナの政策変更なども相まって、世界経済情勢は依然予断を許さない状況にあります。年後半あたりには光明が見えてくることを祈りつつ、引き続きモニタリングに努めたいと思います。る国も増加しているところ、国際的な枠組みを通じた債務の透明性や持続性の強化や、食糧や肥料に関する輸出制限などといった保護主義的な貿易措置を撤廃し、資金支援や制度整備など貿易円滑化に向けた取り組みを強化していくことが重要です。また、これまで長期的な経済成長をリードしてきた投資を再強化することも重要な政策優先事項です。第3章で取り上げているように、過去20年、投資は、特に新興国・途上国において、実質所得や資金供給(credit growth)の成長、交易条件の改善、対外資金の流入、そして投資環境の改革などを促してきましたが、2008-09年の世界金融危機以降、こうした投資の成長を軸とする好循環は衰えつつあります。パンデミックや、急激な世界同時的な金融引き締めにより、投資の成長鈍化に拍車がかかり、新興国・途上国における投資の伸びは、今後中期的に過去20年の平均を下回って推移することが見込まれており、潜在成長率を下押しし、貿易の活性化を通じた成長の果実の共有を妨げ、開発や気候変動における政策目標の達成を一層困難にすることが懸念されます。このように、投資の再強化は喫緊の課題であり、各国固有の事情を考慮に入れつつ、エネルギー・食糧分野などでの非効率な補助金の見直しを含む財政・構造改革、エネルギー・アクセスの強化、低炭素エネルギーへの移行の加速、そして投資環境整備などでの国際的な協力の拡大などを通じ、官民の資金供給の強化を図ることが重要です。

元のページ  ../index.html#73

このブックを見る