ファイナンス 2023年3月号 No.688
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043210(出典)世界銀行「世界経済見通し(2023年1月)(%)-2-4-6-8*13) COVID-19流行直前の2020年1月に発表されたGEPでの成長率見通し。*14) 世界的な所得格差是正の流れの逆転・足踏みに関しては、2022年12月15日付世銀ブログ“The end of an era of global income convergence” 201920202021https://blogs.worldbank.org/developmenttalk/end-era-global-income-convergenceなどに詳しいのでご参照下さい。20222023(出典)IMF(2022年10月WEO)、欧州委員会(2022年11月経済見通し)のデータを基に筆者作成。グラフは、構造的財政収支(structural fiscal balance)の対前年比増減(fiscal impulse)を表す。なお、正の数値は景気刺激的、負の財政刺激は景気引き締め的。-1-2-320202024図表6:財政スタンス比較(%pt/潜在GDP)先進国(2023年1月)新興国・途上国(2023年1月)先進国(2022年6月)新興国・途上国(2022年6月)2021202220232024一方、財政政策は、2020年の歴史的な大規模景気刺激策の後、対パンデミックでの時限的財政措置の終了などにより、全体としては単年ベースでの成長率への影響はネガティブな状況が続いています。その一方で、ロシアによるウクライナ侵攻に端を発するエネルギー・食糧危機対応のため各国が財政支援策を実施していることを受け、向こう2年(2023-2024年)の逆風は、特に先進国においては、半年前の想定よりも若干マイルドなものとなる見込みです(図表6)。 68 ファイナンス 2023 Mar.このように、半年前からの比較といういわば瞬間風速的な視点では先進国の景気減速の深刻さが際立ちますが、新興国・途上国の多くがパンデミックからの遥か回復の途上で今般のショックを被っていることを忘れてはなりません。パンデミック前のトレンド*13との比較では、先進国が本年末までに2.2パーセント下回る水準にまで回復する見込みであるのに対し、新興国・途上国はパンデミック前のトレンドを依然5.6パーセント下回る見込みとなっており、より長期的な視点に立って俯瞰すると、今般のロシアのウクライナ侵攻に起因する経済的ショックは、新興国・途上国のパンデミックからの経済的回復、更には先進国へのキャッチアップを更に遅らせる点において特に憂慮すべきものであることが伺えるかと思います(図表7)。図表7:パンデミック前のトレンドからの乖離先進国新興国・途上国新興国・途上国(除、中国)〈貧困削減・繁栄の共有への影響〉こうした世界同時的な景気減速が貧困削減・繁栄の共有に及ぼす影響は甚大です。2023-24年の2年間の平均で、新興国・途上国における一人当たり所得の成長率は2.8パーセントに留まる見通しとなっており、これは2010年代の平均成長率よりも1ポイントも低い水準です。また、2020-24年の、中国を除く新興国・途上国の一人当たり所得の成長率は、先進国とほぼ同水準に留まる見込みであり、更に、脆弱・紛争後国(FCS)における一人当たり所得は、おしなべて2024年まで減少することが見込まれています。COVID-19パンデミックは、2000年代に入り進展が見られた世界的な所得格差是正の流れを逆転させてましたが、今般のロシアによるウクライナ侵攻や世界同時的な金融引き締めによるショックにより、新興国・途上国の所得面での先進国への収斂(convergence)が一層足踏みしてしまうことが懸念されています*14。パンデミックによる所得格差是正の逆回転を食い止め、これを逆転させることは、貧困率が高い地域ほど困難であり、例えば、世界の貧困層の6割が居住するサブサハラ・アフリカでは、一人当たり所得の成長率は向こう2年で僅か1.2パーセントに留まる見込みとなっていますが、これは貧困率を減少させるどころか、増加させ得る水準です。

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