ファイナンス 2023年3月号 No.688
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5 今回のGEPのポイントではここからは、本年1月10日に発表された最新のGEPのポイントを、私が担当している世界経済情勢部分を中心にご紹介したいと思います。*11) GEPの他にも、世界銀行では、各地域総局が半年毎に地域内の経済概況と展望をまとめた半期経済報告(Regional Economic Updates)などを*12) GEPでは世界の一人当たりGDPの減少を意味し、この定義では、世界経済は1970年以降5度(1975、1982、1991、2009、2020の各年)global recessionを経験していることになります。Global recessionについてより詳細な分析は、前述のGuénette, J. D., M. A. Kose, and N. Sugawara. 2022. “Is a Global Recession Imminent?” EFI Policy Note 4, World Bank, Washington, DC. available at https://openknowledge.worldbank.org/bitstream/handle/10986/38019/Global-Recession.pdf参照。発表しておりGEPを担当する当部門との間で日夜緊密なやり取りが行われています。 66 ファイナンス 2023 Mar.〈世界経済の直近の動向、見通し〉〈先進国・途上国比較〉通しなど、外部の組織が作成・発表している経済見通しの動向も確認しつつ、GEPの公表に向けて、経済見通しを随時ブラッシュアップしています*11。今回のGEPのポイントは大きく3点、(1)世界経済は、COVID-19パンデミックによる世界的景気後退(global recession)*12から僅か3年で再び景気後退の危機に瀕している点、(2)物的・人的資本の蓄積を促し、新興国・途上国の経済成長をけん引してきた投資(investment)の減速が顕著となっており、開発や気候変動に係る目標の達成が危ぶまれている点、(3)パンデミックにより甚大な影響を受けた小国家(small states)は、回復の遅れが新興国・途上国の中でも顕著である点、が挙げられます。中でも、今回のGEPで予測されている世界経済の減速度合いは極めて甚大です。今回のGEPでは、本年2023年の世界経済の成長率が前年2022年の2.9パーセントから1.7パーセントへと急激に減速すると予想されています。これは過去30年間で3番目の低さであり、これを下回る成長率が記録されたのは、世界的景気後退に陥った2009年と2020年のみです。また、前回2022年6月発表のGEPでは、2023年の世界全体の成長率見通しが3.0パーセントと予測されていたことを踏まえると、1.3ポイントもの下方修正となり、これはCOVID-19が世界経済情勢を一変させた2020年6月発表のGEPに次いで2010年以降で2番目に大きい見直しです。こうした世界規模での経済環境の急激な悪化の主な要因としては、(1)想定を上回るインフレの高進に対処するための世界同時的な金融引き締め、これに伴う(2)資金調達条件(financial conditions)の悪化、(3)ロシアによるウクライナ侵攻によるエネルギー、食糧などの供給の混乱の継続、が挙げられます。米国経済はとりわけ前述の(1)及び(2)、欧州経済はとりわけ(3)、中国経済はCOVID-19を巡る混乱と不動産セクターの不振と主因は三者三様でありますが、世界のGDPの半分強(約55%)を占める米国、ユーロ圏、中国という世界経済の三大エンジンのいずれもが弱含んでいます。このあおりを受け、その他の国々、特に新興国・途上国は対外需要の減衰、自国通貨の減価、資金逃避、送金の減少、資金調達条件の悪化などといった負の波及的影響を被っている、という構図となっています。前回2022年6月発表のGEPで、COVID-19パンデミックによる経済的打撃を、ロシアによるウクライナ侵攻によるエネルギー・食糧など供給サイドの混乱が増幅していることで、世界経済の減速傾向が強まっている旨、そして経済活動の停滞と物価の持続的な上昇が併存する状態であるスタグフレーションのリスクが高まっている旨の警鐘を鳴らしていましたが、それから僅か半年の間で、世界経済を取り巻く諸条件は予想を遥かに超えて悪化していることが伺えるかと思います。足元の世界経済情勢では、米国での過去40年で最も急激な金融引き締め、欧州でのエネルギー危機など、先進国経済の減速に注目が集まりがちであり、実際、2023年の成長率見通しについて先進国と新興国・途上国とを比較してみると、先進国では2022年の2.5パーセントから0.5パーセントへと、2ポイントもの減速が見込まれているのに対し、新興国・途上国は、昨年から横ばいの3.4パーセントとなっています。また、半年前の予測(2022年6月発表のGEPにおける2023年の成長率見通し)との比較では、先進国に関しては1.7ポイントもの下方修正(2.2パーセントから0.5パーセント)となっているのに対し、新興国・途上国は0.8ポイントの下方修正(4.2パーセントから3.4パーセント)に留まります(図表2)。

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