ファイナンス 2023年3月号 No.688
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ファイナンス 2023 Mar. 65 *8) 一次産品輸出国(commodity-exporting countries)は、2017-19年の平均で、全一次産品の輸出額が輸出総額の30パーセント超、もしくは、ある特定の一次産品の輸出額が輸出総額の20パーセント超、のいずれかを満たす国(但し、再輸出分を除く)。一次産品輸入国は一次産品輸出国以外の国(特に新興国・途上国)を指す。*9) 脆弱・紛争影響国についての詳細は、https://www.worldbank.org/en/topic/fragilitycon■ictviolenceなど参照。*10) 小国家(small states)は、人口150万人以下の国家を指す。countries)により焦点を当てた内容となっており、貧困削減・繁栄の共有という世界銀行の組織目標に照らして重要な指標となる国民一人あたりの所得(GDP per capita)など、開発関連の指標を数多く用意している点も特徴です。また、一概に新興国・途上国といっても多種多様で、例えば昨年のように資源価格が急騰した際など、その影響は資源輸出国と資源輸入国で大きく異なり、政策課題や政策提言に関しても各々の事情にに応じたものを示すことが求められます。こうした点を踏まえ、GEPを始め開発見通し局の出版物では、一次産品輸出国(commodity-exporting countries)や一次産品輸入国(commodity-importing countries)*8、安定的・持続的な経済成長の基盤が確立されておらず、2030年までに世界の最貧困層の3分の2を占めると予測されている「脆弱・紛争影響国」(fragile and conflict-affected states:FCS)*9という区分や、直近のGEPの第4章で重点的に取り上げられている小国家(特に太平洋地域やカリブ海地域に多く存在する小島嶼国)(small states)*10など、新興国・途上国を特徴に応じグループ分けした小分類がよく用いられています。また、政策課題やリスクについても、世界的な課題と新興国・途上国に固有の課題とに分けて詳述されており、世界的な課題に関しては、例えば今般の米国の金融引き締めが新興国・途上国に及ぼす影響のように、主要国からの波及的効果(spillover effects)に重きを置いた記載となっています。GEPの作成過程に関し私がチームに加入して驚いたことの一つは、その準備が予想よりも長い時間をかけて行われることでした。前述の通りGEPは年に2度、1月上旬と6月上旬に公表され、公表後しばらく 4 経済見通しの作成過程ここで少し、GEPに掲載されている各国・地域の経済見通しがどのように作成されているのか、可能な範囲でご紹介できればと思います。の間はメディア対応やスタッフが各国を行脚してプレゼンなどを行うロードショーの期間となりますが、それらが一段落すると、早くも次のGEPに向けた準備が始まる、というサイクルとなっています。従って、3、4か月先の読者を念頭に置いてナラティブや見通しの作成に着手することとなり、こうした作業は常にチャレンジングではありますが、チームで議論を積み重ね、レポートに磨きをかけていく作業は得難い経験かと思っています。世界銀行の経済見通しの特徴の一つとして、130以上の国に設置されている世界銀行の現地事務所のネットワークをフル活用し、いわば現地主導で新興国・途上国各国の経済見通しが作成されている点が挙げられます。こうした中、私が所属する開発見通し局は、各国の経済見通しを作成する上で鍵となる先進国・一次産品価格の見通しの作成や、グローバルなナラティブの作成、各国の経済見通しの全体的な調整などを行っています。GEPに向けた経済見通しの作成は、開発見通し局が、先進国(advanced economies)及び一次産品価格の見通しについての当初想定(initial assumption)を作成するところから始まります。これら当初想定は、新興国・途上国各国の経済見通しを作成する上での重要な土台となり、世界銀行の各国デスクは、マクロ経済モデルや国民経済計算(GDP統計)を踏まえ、各国デスクが平素官民のカウンターパートに対し行っているヒアリング、小売や鉱工業生産などといった高頻度のハード・データや購買担当者景気指数(Purchasing Manager’s Index:PMI)などのソフト・データ、そして特に新興国・途上国の場合は、貿易や金融など様々なチャネルを通じ伝播する波及的効果など、様々な情報を勘案し、各国の経済見通しを作成します。経済見通しは随時発表・更新される経済データや財政・金融政策の変更、そして自然災害や気象条件など外生的なイベントによって日々変化する「生き物」です。そのため、各国デスクと取りまとめを行う開発見通し局のエコノミストとの間で緊密に連携し、他の国際機関や各国の中銀・政府機関、そして民間の経済見

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