ファイナンス 2023年3月号 No.688
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---- ファイナンス 2023 Mar. 55図表4 預金保険法に基づく金融機関等の破綻処理制度の概要金融機関の破綻処理制度及び預金保険入門 (出所)中曽(2022)および吉良宣哉氏資料をベースに作成処理の枠組み預金等定額保護金融危機対応措置 (102条)(流動性供給・資本増強)預金取扱金融機関、秩序ある処理 (126条の二)*17) この他、預金保険機構が他の金融機関に預金を預け入れた上で、その債権を預金者等に譲渡する方法もあります。*18) この場合、適資産/適資産以外の切り分けは行われず、資金援助内のツールとして金銭贈与、資産の買取りなどが同時に行われることがあり得ます。*19) ここでの書きぶりは、預金保険機構のディスクロージャー誌における「定額保護下の破綻処理の流れ」を参照しています。詳細はディスクロージャー誌を参照してください。保険金支払い方式 (狭義ペイオフ)日本版資産負債承継方法 (資金援助方式)第一号措置 (資本増強)第二号措置 預金取扱金融機関(ペイオフ・コスト超の資金援助)第三号措置 (一時国有化)特定第一号措置 証券会社、保険会社など(金融持ち株会社を含む)特定第二号措置 (特定資金援助など)対象・第一種保険事故(預金などの払い戻しの停止)または第二種保険事故(営業免許の取り消し、破産手続き開始の決定または解散の決議)・第一種保険事故・救済金融機関などによる合併等に関する金融庁長官の「適格性」の認定またはあっせん・措置が講ぜられなければ、国または地域の信用秩序の維持に極めて重大な支障が生ずるおそれがあると認められるときに、金融危機対応会議の議を経て、措置可能・わが国の金融市場その他の金融システムの著しい混乱が生ずるおそれがあると認められるときに、金融危機対応会議の議を経て、措置可能発動要件・破綻金融機関でも債務超過でもないとき・破綻金融機関または債務超過・債務超過かつ破綻金融機関・第二号措置によっては左記の支障を回避することができないとき・債務超過でないとき・債務超過または支払い停止(これらのおそれを含む)処理の例日本振興銀行 (2010年)りそな銀行 (2003年)足利銀行 (2003年)3.2 資金援助方式とは3.3 資金援助方式の流れ(この関係は下記の図表4に示されています)。歴史的には、我が国では、1960年代に預金保険制度が生まれ、1980年中頃、前述の資金援助方式が導入されることで、「預金等定額保護」が確立します。(1)「預金等定額保護」には、預金保険の対象の範囲内で預金者に直接保険金が支払われるという制度*17があり、「保険金支払い方式」や「ペイオフ方式」と呼ばれています(ペイオフには二つの定義があるのですが、ここで用いているペイオフは「狭義のペイオフ」といえます。図表4でも「狭義ペイオフ」としています。広義のペイオフについては後述します)。1990年代に我が国では不良債権問題が深刻化しましたが、その間暫定的に生まれた法案が恒久化される形で、2000年前半に「金融危機対応措置」が確立します。そして、2008年の金融危機を経て、TBTFを防ぐための措置が求められる中、預金保険法の改正により、(3)「秩序ある処理」が生まれました。本稿では紙面の関係上、(1)預金等定額保護に焦点をあて、次回以降の論文で、(2)「金融危機対応措置」、(3)「秩序ある処理」を取り上げます。我が国において資金援助方式は、1980年代につくられました。資金援助方式とは、前述のとおり、銀行を完全に清算するのではなく、預金保険機構の援助を求めつつ、最終受皿金融機関に事業譲渡を行ったり*18、良い資産のみをブリッジバンクに移管させる方式です。保険金支払い方式(ペイオフ方式)を採用すれば、破綻した金融機関が保有していた金融仲介機能や決済機能は消滅してしまいますが、他の金融機関への事業譲渡を目指した資金援助方式であれば、こうした金融機関の機能は維持されますので、金融機関の破綻に伴う混乱を最小限に留めることに資すると考えられます。したがって、破綻処理のコストを最小化することを考えれば、保険金支払い方式より資金援助方式が優先されます。もっとも、金融機関が破綻した場合、経営責任を求めるという意味で、従来の経営者にその運営を担わせるわけにはいきません。そこで、短期的に経営などを担う主体が必要となり、これを金融整理管財人といいます。具体的には、金融庁が金融整理管財人として預金保険機構を選任します*19。図表5は、救済金融機関として、当機構の子会社である承継銀行を利用する場合のスキームを例示しています。資金援助方式では良い資産と悪い資産の切り分けを行います。読者が金融機関の経営者であり、破綻金融機関を引き継ぐとしたら、悪い資産を有している金融

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