ファイナンス 2023年3月号 No.688
57/106

預金者ファイナンス 2023 Mar. 53図表3 資金援助方式 金融機関の破綻処理制度及び預金保険入門 付保預金非付保預金*7) ここでの表現は下記の預金保険機構の表現を用いています。 *8) 池尾(2009)では「金融機関は、自らの資産の健全性について自己査定すること(その妥当性に関しては、外部監査による承認が必要とされる)が求められるようになり、その結果算出された自己資本比率が一定値を下回った場合には、監督当局への業務改善計画の提出その他必要な是正措置の命令を受けることになる。それでも改善が実現されなかった場合には、破綻処理に移行することになる」(p.97)としています(金融機関の破綻処理については今後取り上げることを予定しています)。*9) ここの記述は池尾(2009)に則っています。*10) 同書のp.513-514を参照しています。https://www.dic.go.jp/yokinsha/page_000018.html(名寄せ)財産の状況に応じて支払い(出所)預金保険機構預金保険機構(=金融整理管財人)救済金融機関(事業譲渡先)承継資産不良資産(資金援助)(資産切分け)破綻金融機関2.5 ベイルアウトと預金保険の役割とも、池尾(2003)が指摘しているとおり、実際の金融システムの安定という観点では、破綻した銀行を清算し、預金者に定額の範囲で預金を保証する方法が必ずしも適切とはいえません。むしろ、銀行の資産が大きく棄損される前に早めに破綻させるとともに、健全な資産に絞り、その他の銀行に引き継がせるほうが望ましいとも言えます。預金保険機構が有するこのような機能は、「資金援助方式」あるいは「資産負債承継方式」と呼ばれています。具体的には、預金保険機構が損失分の援助を行い、破綻した銀行の健全資産と預金を他の銀行に引き継いでもらう方法です(場合によっては、預金保険機構が一時的なブリッジ・バンク(承継銀行)を設立しますが、詳細は後述します)。図表3が資金援助方式のイメージですが、預金保険機構は、「破綻した金融機関の事業の一部またはすべてを、ほかの健全な金融機関(救済金融機関)が承継し、預金保険機構がそのために必要なコストを救済金融機関に資金援助するかたちで預金等の保護を行う方法」*7と説明しています。この具体例は次節で説明します。服部(2023a)でも説明しましたが、銀行の資産が大きく棄損される前に早めに破綻させる背景には、金融機関が債務超過に陥り、失うものがなくなった場合、一か八かの投資を行うなど、リスクテイクを増やすことへの懸念があります。その意味で、経営破綻状態に陥った銀行を直ちに閉鎖ないし適切な再組織化の措置をとることは金融システムの健全性に寄与すると考えられます。我が国では、自己資本が薄くなる早い段階で介入を行うため、早期是正措置が導入されています*8。前述のとおり、1990年代になり不良債権問題が深刻化する中で、破綻処理制度が確立しますが*9、早期是正措置は1998年4月に導入されています。なお、早期是正措置そのものは1980年代の貯蓄貸付組合(Savings and Loan association, S&L)危機の経験を経て米国で生まれた制度を、我が国が取り入れたものですが、S&L危機についてはBOXを参照してください。預金保険機構は、TBTF問題とも密接な関係を有しています。巨大な金融機関が破綻した場合、その銀行の破綻が他の金融機関へ伝播していくため、政府はその前に巨大金融機関を救済するインセンティブを有しています。危機に陥った金融機関に対して国や中央銀行・国際機関のような公的主体が資金を注入することを通常、ベイルアウトと呼びますが、服部(2023b)で指摘したとおり、仮に「大きすぎて潰せない」ことを金融機関が予期した場合、その救済を前提に過度なリスクテイキングを行うなどモラルハザードの問題が深刻になりえます。そこで、金融危機を受けて、公的資金による救済を行う前に、株主や債権者へ損失の負担を求める必要性が認識されました。これをベイルアウトに対して、「ベイルイン」と呼びます。金融の文脈でベイルアウトという表現は幅広い意味で用いられています。例えば、政府がリスクをとって資本を注入するような場合から、一時的な資金貸付のようなケースもあります。アーマー等(2020)ではベイルアウトの方法を3つに分類しています*10。第一

元のページ  ../index.html#57

このブックを見る