ファイナンス 2023年3月号 No.688
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*4) 本稿では歴史的な内容を多く含むことから、できる限り出所を付しながら記載していきます。*5) 下記をご参照ください。 1はじめに前回筆者が記載した「システム上重要な銀行入門」(服部, 2023b)で強調したとおり、「大きすぎて潰せない問題(Too Big to Fail, TBTF)」を回避するためには、(1)そもそもシステム上重要な銀行の破綻確率を低下させるため、「生き伸びるための資本」である「普通株式等Tier1資本」(Common Equity Tier 1, CET1)*2をより一層求める必要があります。もっとも、それと同時に、(2)仮に破綻したとしても、秩序ある破綻処理を可能にするための枠組みも必要といえます。(1)については「システム上重要な銀行入門」(服部, 2023b)で詳細に議論を行ったため、本稿では、金融機関の破綻処理と密接な関係を有する預金保険機構を軸に、破綻処理を考えていきます。2預金保険とは2.1 銀行業が有する本質的な脆弱性「バーゼル規制入門」で議論しましたが、銀行は預金で資金調達をし、貸出することで利益をあげています。もっとも、預金が短期調達であり、貸出が長期運用であることから、仮に多くの預金者が一斉に引き出した場合、それに対応することができず、銀行が倒産してしまうということが起こります。https://sites.google.com/site/hattori0819/*1) 本稿の作成にあたって、川名志郎氏、吉良宣哉氏、堀岡弘二氏、匿名の有識者など、様々な方に有益な助言や示唆をいただきました。本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。*2) CET1の定義については筆者が記載した「バーゼル規制入門」を参照してください。*3) 日銀のウェブサイトでは、ペイオフについて「金融機関が破綻した場合の破綻処理方式の1つとして、保険金を預金保険機構が直接預金者に支払う方式」と、「金融機関が破綻した際に、預金等の一定額しか預金保険による保護の対象にならないこと(換言すれば、預金者に損失の負担が生じ得ること)」という二つの方法がある点を指摘しています。詳細は下記を参照してください。https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/pfsys/e28.htm東京大学 公共政策大学院 服部 孝洋*1 50 ファイナンス 2023 Mar.そもそも預金保険は歴史的に、銀行の破綻を防ぐため米国で生まれました。我が国では1970年代に預金保険が導入されますが、1990年以前は、銀行が破綻しないことを前提とした金融行政(いわゆる護送船団方式)が敷かれており、その役割は限定的でした。しかし、1990年以降、不良債権問題が深刻化し、公的資金注入や一時国有化など、現在の破綻処理制度が確立する中で、預金保険の重要性が高まります。前述のとおり、金融危機を経てTBTF問題への対応が必要になりましたが、我が国では預金保険法が改正されることで、証券会社や保険会社など預金取扱機関以外に対しても秩序ある破綻処理が可能になりました。本稿では、まずは、預金保険の全体像を議論した後、金融機関の破綻処理の中でも、預金等定額保護(保険支払い方式や資金援助方式)を取り上げます。本稿の特徴は、金融機関の破綻処理のイメージをつかむため、(預金者に損失の負担が発生したという意味で)初めてペイオフ*3が発動された日本振興銀行の事例について、破綻処理の観点から比較的詳細に議論を展開している点です*4。次回の論文では、資本増強や一時国有化などを可能とする預金保険法102条スキーム及びその事例を取り上げます。なお、本稿は筆者がこれまで記載した一連の金融規制の文献を前提とするので、基礎的な知識の確認が必要な読者は筆者が記載した「バーゼル規制入門」(服部, 2022c)などをご一読ください。筆者が記載してきた金融規制や債券の入門シリーズは筆者のウェブサイトにまとめて掲載してあります*5。銀行業が本質的に脆弱である背景には、仮にその銀行が健全であったとしても、取り付けにより倒産が起きてしまう可能性がある点です。例えば、読者がある金融機関の破綻処理制度及び 預金保険入門

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