ファイナンス 2023年3月号 No.688
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ファイナンス 2023 Mar. 39和歌山県財政の現状と課題 *31) ただし、「地方単独事業分」以外は大きな目的ごとに枠が設定されており、代表的なものに、無料PCR検査のために用いる「検査促進枠」、飲食店の営業時間短縮要請に伴う補償金の支払いのために用いる「協力要請推進枠」、エネルギー・食料品価格等の物価高騰対策のために用いる「電力・ガス・食料品等価格高騰重点支援地方交付金」等がある。*32) ただし、すべての地方自治体が交付税措置率の高い有利な地方債を使用できたとしても、国全体(マクロ)の地方交付税額が一定であればゼロサムである点に留意。*33) 例えば、和歌山県では国の経済対策等に対応するため、令和2〜4年度の間、予算提案のための臨時議会の招集が3回、予算案の提出が定例議会の開会に間に合わず追加提案となった事例が5件発生した。筆者略歴庄中 健太(しょうなか けんた)平成25年(2013年)財務省入省。主計局地方財政係、内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局等を経て、令和4年(2022年)7月より和歌山県へ出向。財政課長として和歌山県の財政運営、予算編成等を担当。国の予算措置が地方の政策決定に与える影響以上、和歌山県の財政について、「財政危機警報」と併せて現状と課題を説明してきました。最後に少々脱線しますが、国による近年の大規模な経済対策を受けて、地方自治体がどのような政策決定を行ってきたかについて簡単に述べたいと思います。新型コロナ流行以降、国が実施してきた主な地方向けの補助金として、新型コロナウイルス感染症対応地方創生臨時交付金(以下「臨時交付金」)があります。臨時交付金は、医療提供体制の整備から新型コロナの影響で打撃を受ける事業者・生活者の支援まで、「新型コロナ対策に資する」政策であれば、それぞれの実情に応じて地方が自由に使うことのできる*31交付金です。では、総額17兆円を超える臨時交付金は、各自治体で有効に活用されているのでしょうか。当然、特にコロナ禍の初期において、地方自治体が躊躇なく迅速に新型コロナ対策を実行できたという点で、一定の成果はあったかもしれません。ただし、国から自由に使える交付金の限度額が示されるため、地方としてはその枠を余らせるわけにはいきません。すなわち、一般財源の形で歳入できる地方交付税と異なり、目的と期限が定められている多額の臨時交付金は、期間内に事業化し歳出計上することに注力することになります。結果として、平時であればおよそ許されないであろう事業を予算化し、現金給付やキャッシュレス決済のポイント還元事業、果てにはモニュメント建設まで、新型コロナ対策とは直接関係のない半ばバラマキのような施策が全国の都道府県・市区町村で実施されてきた側面は否定し難いでしょう。私は財政課長として、臨時交付金を財源とする事業については、県民に対して一貫した説明が可能な事業となるよう、予算査定に努めてまいりました。しかし、これらもあくまで臨時交付金を財源とするワンショットの事業であり、自主財源を用いて恒久的に実行すべきと考えられるものはほとんどありません。私が和歌山県を主体として考え、使える財源はすべて県民のために活用すべく最大限努めるのは当然ですが、ひとたび国の目線に立った時に、大量の赤字国債を発行し、将来世代に負担を押し付けてまで実施すべき事業なのだろうかと憂慮するのもまた事実です。今回取り上げた公共事業や国土強靱化事業の要望についても、国の制度や内示プロセスを所与とした場合の最適解を検討すべきなわけですが、そもそも所要額の内示がなされたり、同種の事業であれば有利な地方債を選択できるような要望制度が存在するのであれば、内示率が読めない中で高めの要望を提出したり、結果として措置率の低い事業に起債が偏るといった問題は起こらないかもしれません*32。また、全国旅行支援や出産・子育て一時金といった国の経済対策によって措置される事業についても、国の決定や通知において地方の予算編成日程が考慮されておらず、対応に苦慮する例もありました*33。今後、国としても予算措置の内容、日程感、プロセスともに、地方の実情を考慮した適切な制度設計を行っていく必要があるのではないかと愚見申し上げ、和歌山県としてもしっかりと県政を前に進めるため、私も一県職員として邁進してまいります。

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