ファイナンス 2023年3月号 No.688
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(参考1)財調・県債基金残高の見込み(単位:億円)R11R12R13R14プラン し、伸び率を乗ずるなど機械的に推計。庫支出金)の増にもつながっている点に留意。R5(R3年度末)209新たな試算 (R4年度末)209R6185R7171112R8139R9R10------▲5▲120▲250▲375▲507▲642▲781▲941*9) 令和5年度当初予算を起点として、内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(令和5年1月)のベースラインケースにより、経済成長条件等を想定*10) 内閣府「中長期の経済財政に関する試算」(令和5年1月)https://www5.cao.go.jp/keizai3/econome/r5chuuchouki1.pdf*11) 公共事業についても近年の上振れ(後述)を反映しているが、これは一定の国庫補助があることに加え起債措置が取れるため、同時に歳入(県債、国*12) 地方財政法第5条参照。*13) 既発の交付税措置率が有利であった銘柄の償還が終了していくことに伴い、公債費のうち交付税措置がなされるものの割合が減少傾向となる点にも留意。*14) 臨時財政対策債3,192億のほか、ハード事業以外に対する県債も含まれている点に留意。*15) この際、県債残高の1兆967億円に加えて、財調・県債基金の残高欄に記載のある▲941億円相当の収支不足が発生している点に留意。*16) 地方公共団体の財政規模に対する、借入金(地方債)など現在抱えている負債の比率。 34 ファイナンス 2023 Mar.財政収支悪化の要因では、何故プラン公表から1年足らずでこのようなしかしながら、今般令和5年度予算を編成するにあたり、プラン策定時からの実績の他、足下の物価上昇・金利高騰の影響といった社会経済情勢の変化を踏まえ*9、新たに令和14年度までの10年間の財政収支の推計を行ったところ、県の「貯金」である財調・県債基金が令和7年度に底を突くという結果が明らかになりました(参考1)。これは、何ら対策を講じなければ、令和7年度以降の予算編成が困難となり、災害等の不測の事態に対して必要な支援を行うことができない状況が起こり得ることを意味します。状況となったのでしょうか。新たな試算では、令和5年度当初予算を起点として、内閣府「中長期の経済財政に関する試算」*10(以下「中長期試算」)のベースラインケースにより、経済成長条件等を想定し、伸び率を乗ずるなど機械的に推計しています。財政収支(形式収支)は歳入と歳出の差分です。歳出については、足下の物価高騰・金利上昇を受け、経常人件費・退職手当のほか、公債費の利子償還金や光熱水費等が上方修正されています。反対に、歳入については、中長期試算における経済成長率の見通しが鈍化したことで県税が下方修正されています*11。このように、歳出の増に対して歳入の増が十分に追いついていかず、結果として昨年度と比較してより厳しい財政収支の絵姿となりました。これは和歌山県のみならず、全ての自治体に当てはまる要因といえます。長期的な影響さらに、長期的な影響にも目を向けてみます。地方自治体の独自課税は容易でなく、国と異なり財源不足を補うための赤字地方債の発行も認められていません*12。そのため、歳入は経済成長による税収の増加分を見込んだとしても、人口減少や高齢化の進展に伴いその増加幅は鈍化する見込みです。歳出については、高齢化の進展によって社会保障関係経費が増加するとともに、公共事業の推進に伴い公債費が大きく増加していく見込みです。社会保障関係経費についてはそのほとんどが義務的な経費であり、裁量の余地はほとんどありません。他方、公債費についても県債の元利償還額なので義務的経費ではあるものの、その原因となるハード事業については県の裁量で行われるものです。和歌山県は前述の通りインフラ整備の後進県でしたが、近年は国による国土強靱化事業の推進もあいまって、公共事業を積極的に推進してきました。その結果、県内のインフラ整備や防災・減災対策が加速度的に進展した一方、起債措置による後年度の財政負担についても顕在化してきました。通常、公共事業等のハード事業を行う際は県債を起債して事業資金を調達します。これにより、各年度の財政負担を平準化することができますが、県の借金である県債残高はその分積み上がることになります。また、このうち後年度に地方交付税によって財政措置がなされるものもありますが、いずれにしても償還時には耳を揃えて返済する必要があります*13。今回の試算によれば、和歌山県の場合、令和5年度当初予算の段階で1兆822億円*14であった県債残高は令和14年度には1兆967億円まで増加し*15、将来負担比率*16は219%から256%まで上昇する見込みです(参考2)。

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