ファイナンス 2023年2月号 No.687
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*12) カンボジア国立銀行(NBC(2021a)(2021b))*13) カンボジアの成人人口10万人あたりの商業銀行の支店数は、2021年時点で、約12支店。これは、ASEAN(ミャンマーを除く)の中で、ブルネイ、*14) UNCDF(2022)*15) カンボジア国立銀行等の政府関係機関からのヒアリング。*16) 2019年時点のカンボジア金融機関の平均的な預金金利は、ドル建てで4.9%、リエル建てで6.2%となっており、金融機関は預金金利にオペレーショ*17) マイクロファイナンス機関の平均貸出金利は、10.8%〜18%と、商業銀行の8〜12%と比べ、高い(UNCDF(2022))。インドネシアについて高い水準。(IMF(2022c))。ンコストを上乗せし融資を実施する。(UNCDF(2022)) 86 ファイナンス 2023 Feb.3. 中小企業の金融アクセス向上のための金融セクター支援ファイナンス機関77社など141の金融機関が存在しており、その拠点数は合計2,552箇所となっています*12。カンボジアの人口やGDPの規模から考えると金融機関数は少なくないと考えられる一方で、中小企業と金融機関の双方が課題を抱えており、中小企業には十分な資金が行きわたっていないと考えられます*13。まず、中小企業側の課題として、多くの中小企業で財務諸表が作成されていないことが挙げられます。CCCによれば、カンボジアの中小企業の90%は財務状況の報告を行っていないとされており、実際に、2022年10月に現地調査で訪問したプノンペンの中小企業2社(A社は、年商約2百万米ドル、従業員数約15名。B社は、年商約20万米ドル)においても、財務諸表は作成されておらず、請求書や領収書等に基づいて経営の管理を行っていました。また、カンボジアの多くの中小企業では、省庁への登録に不備があるという課題があります。カンボジアでは事業を開始するにあたって、商業省や税務総局に登録する必要がありますが、商業省によれば、カンボジアの中小企業の97%は商業省への登録が行われていません*14。公的に確認された事業内容や雇用状況等の情報が存在しないため、金融機関側から中小企業の経営実態を把握することが困難であり、中小企業は金融機関の支援を得ることが難しい状況にあります。他方、金融機関側の課題としては、貸付金利が高いこと、そして、貸付を行う際に、多くの場合で、中小企業に対して不動産の担保提供を求めていることが挙げられます*15。カンボジアでは、融資原資の73%を預金に依存していること等から*16、貸付金利が高く設定されています。また、先述のとおり、多くの中小企業では、財務諸表が作成されておらず、貸し手と借り手の間の情報の非対称性が大きいため、金融機関は貸付金利を高く設定した上で、不動産担保によって融資リスクの保全を図っています。マイクロファイナンス機関は、たとえば3,500米ドル以下の少額の融資については無担保で実行することがあるものの、基本的に一定額以上の融資には不動産担保の提供を条件としており、さらに平均的な金利が商業銀行より高く*17、返済負担が大きいことから、成長途上にある中小企業はマイクロファイナンス機関から十分な資金調達が困難であると考えられます。不動産担保を提供できる大規模な中小企業は、商業銀行から資金調達ができると考えられる一方、担保として提供できる不動産を持たない中規模・小規模の中小企業は、資金需要を満たすことが困難であり、発展の機会を逸失していることが考えられます。カンボジア中小企業の発展課題に関連して、日本や国際機関は、金融セクターにおける制度及び人材育成支援等を実施しています。具体的には、日本の支援として、国際協力機構(JICA)が新型コロナウイルス感染症の拡大によって影響を受けた中小企業の支援等を目的に、金融セクター等を対象とした緊急支援円借款をADBやWBと連携して供与しているほか、カンボジア日本人材開発センター(Cambodia-Japan Cooperation Center(CJCC))を通じて、中小企業経営者に対するビジネストレーニングを行うなど、産業人材育成支援等を行っています。国際機関による支援としては、国際金融公社(IFC)がカンボジアの商業銀行であるHattha Bankの社債を購入することを通じて、中小企業への融資を促進していることに加え、カンボジア国立銀行と協力してサプライチェーンファイナンスの市場開発を計画し、中小企業の資金調達を支援することを検討しています。また、ADBやWB等はカンボジア信用保証公社(Credit Guarantee Corporation of Cambodia(CGCC))に対する技術支援を行うなど、制度面の整備が日本や国際機関の支援によって進められています。今後、これら制度の活用を進めるためにも、人材育成支援の更な

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