ファイナンス 2023年2月号 No.687
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*30) 前回触れたように、アフリカ経済については、サービス産業主導の成長という欧米やアジアと異なる独自の発展経路を■っており、「軽工業の次に重*31) 豊田通商HP:「スタートアップ企業に特化した投資会社を設立」(2019年8月22日) *32) https://aaicinvestment.com/ja/home-jp/what-we-do/*33) https://samurai-incubate-africa.asia/*34) https://uncoveredfund.com/EN/about*35) https://doublefeather.com/ja/*36) https://sunnyside-vp.com/jp工業を発展させる」など前例に基づいて予測したり、そうした前提で政策を考えたりすることが難しい状況にある。https://www.toyota-tsusho.com/press/detail/190822_004465.html 78 ファイナンス 2023 Feb.フリカの成長性を見込み、「アフリカに新しい産業を創る」ことをミッションとして掲げ、ナイジェリアとケニアに活動の拠点を設け、2018年からアフリカのスタートアップに投資している。既に11か国100件以上に投資を行い、しっかりとリターンを出しているとのことであり、さらに今年2月からはナイジェリアのプライベート・エクイティ会社のVerod Capital Managementと組んで、より成長ステージの進んだ企業への投資を開始している。同社は、投資を通じて、アフリカの関係者と信頼関係を築き、日本企業とアフリカのスタートアップをつなぐこと、さらには、アフリカ投資の難しさの一つであるExit(投資の出口)についても、スタートアップ同士の買収合併(M&A)などに力を入れているということである。私が感銘を受けたのは、「アフリカの成長性を見込んで、資金を調達し、実際に投資してリターンを得ている」との行動力や投資家としての実力とともに、そのコンセプトの的確さである。同社から初めて話を伺ったのは、昨年夏であるが、その際は、「現地スタートアップの成長をサポートし、日本企業と協業する仕組みを作り出す」との同社の取組が、まさに日本とアフリカがともに育つために必要なことであると思い感銘を受けた。その後、私自身が、アフリカのスタートアップについて、「スタートアップといっても、活動そのものは安定し、規模を追求する段階になっている企業も多いこと」「そのためにアフリカ他国に進出したり、同業者同士や関連事業者同士で買収・合併(M&A)をする動きも始まっていること」などを学び、「アフリカ経済は独自の発展経路を辿っており展望が難しいが*30、アフリカのスタートアップの中には将来的に産業と言い得るものにまで育っていくものがあるはずである。したがって、スタートアップの動きを『アフリカ市場がアフリカの成長について出しつつある答え』として丁寧に見ていけば、アフリカ経済の先が見えてくるのではないか」「スタートアップが活動の規模や幅を拡大するよう投資等により支援していくこと自体が、アフリカの産業の発展への貢献そのものである」と思うようになった。そうした上で、同社が「アフリカに新しい産業を創る」ことをミッションに掲げている点に改めて気づき、その的確さ、さらにはそれに表れている同社の慧眼に改めて感銘を受けたのである。さて、やや脱線するが、アフリカのスタートアップの中には、評価額が10億ドルを超えるいわゆるユニコーン企業が出てきつつある。このため、完全に成功が見通せる企業を買うのはアフリカでも高いのであり、「成長しそうなスタートアップが複数ある分野でのM&A等によりまとめ上げて、場合によっては、その会社を自分で買う」「自分の会社の技術を必要とする会社を見つけて投資して育てる」など、「早めに関与し育てていく」というスタンスが重要ではないかと感じつつある。そうした観点から、個人的には、豊田通商が2019年に設立したMobility 54*31(アフリカでモビリティ関連のスタートアップに投資)などのように、自社の関連分野に投資するというのも面白いと思う。アフリカは、車を売るために関連産業を自分で育てることが必要もしくは効果的であり、かつ、それが新たな収益源となる市場なのかもしれないのである。なお、前述の「アフリカスタートアップ白書」の2022年8月号によれば、アフリカに特化した日系のベンチャーキャピタルには、紹介したKepple Africa Venturesなどのほかに、AAIC*32、Samurai Incubate Africa*33、Uncovered Fund*34、Double Feather Partners*35、Sunny Side Venture Partners*36があるが、筆者がそれらのホームページや報道などを見たところ、いずれもこの10年の間にアフリカ向けの投資を開始したようであり、やはり、日本のアフリカ向けの動きが近年高まっているように感じる。「投資先のどれかが大きなリターンを産めばよい」といったスタンスが許されうるベンチャーキャピタルは、アフリカの市場にあったアプローチである。

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