ファイナンス 2023年2月号 No.687
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*27) この2つの事例以外にも、多くのアフリカで活躍する日本人に感銘を受けた。2つの事例に絞ったのは、ひとえに紙面の制約からである。*28) https://degasafrica.com/*29) https://kepple-africa-ventures.com/氏*23がよく知られており、決して新しい動きではない。しかしながら、寡聞にして、アフリカにおける日本人の起業家を過去から網羅した資料を知らず、感覚的なことを書いて申し訳ないが、アフリカで活動する日本人は着実に増えているのではないかと思う。新たに「アフリカで活躍するこんなすごい日本人がいる」との話を教えてもらったり、実際に会ったりすることがしばしばあるのだ。なお、前述のように、日本人のアフリカでの起業を過去から網羅したものは存じ上げないが、近年のアフリカで活躍している日本人の動きをまとめた資料は存在する。その一つが、2012年に設立されたアフリカビジネスパートナーズ合同会社*24が公開する「アフリカスタートアップ白書*25」であり、その2022年8月号によれば、「2012年以降に百万ドル以上の調達を行った」日系スタートアップとして、WASSHA(2013年設立)、Degas(2018年設立)、SENRI(2015年設立)、HAKKI Africa(2019年設立)、Allm(2001年設立)の5社があり、そのいずれも評価額を10億円を上回っているとのことである。同白書は、こうした動きに限らず、日系のアフリカ向け投資ファンド、さらには日系に限らないアフリカのスタートアップの状況を的確に日本語でまとめており、大変資料価値が高い。同社は、企業のアフリカビジネスをサポートすることに特化したアドバイザリーファームであり、こうした会社が出てきたこと自体にも、日本のアフリカビジネスに厚みが出つつあることを感じる。同白書のほか、経済同友会アフリカ委員会の同志らが立ち上げた「日本AFRICA起業家イニシアチブ」のホームページ*26には、2016年から2019年の間に同取組が支援を決定した13人の日本人の情報が記載されている。*23) 佐藤義之「歩き続ければ大丈夫。アフリカで25万人の生活を変えた日本人起業家からの手紙」(2014年11月、ダイヤモンド社)*24) https://abp.co.jp/about/index.html*25) https://abp.co.jp/perspectives/business/startupreport2022.html*26) 同取組の下記のホームページによれば、同取組について、「国際協力機構の青年海外協力隊で現地活動に経験がある若者たち、あるいは、アフリカの未来性に魅了されている若者が、現地での起業に挑んでいる実態もある。また、アフリカに関心がある現地入り予備軍も日本全国に散らばっていると推測できる。このような若者たちの志と行動を応援し、アフリカ有志のコミュニティづくりを日本企業が助力することに大事な意義があるのではないかと経済同友会のアフリカ委員会のメンバーを含む有志が意気投合。ワーキング・グループである「チーム・アフリカ」を発足し、アフリカ起業支援コンソーシアムを2016年3月に設立した」との説明がある。http://entre-africa.jp/ ファイナンス 2023 Feb. 77さて、こうした中、このエッセーでは、私が実際に会い、非常に感銘を受けた事例の中から、二つ紹介したい*27。一つ目は、牧浦土雅氏が2018年に立ち上げ、ガーナで農業関係事業を行うDegas社*28である。同社は、世界的なバイヤーであるネスレへの販路を開拓・確保した上で、農家を「Degas Farmer Network(DFN)」というグループにまとめ、その所属農家に対し、肥料・種子・農薬等をパッケージ化したものを現物融資したり、デジタル技術の活用等を促進することで、実際の生産を助け、農家の収入増に貢献している。結果として、一万五千人の農家に融資を行い、その所得を倍増しているとのことである。同社について、私が感銘を受けたポイントは多数あるが、最大の点は、アフリカ農業が抱える生産性の低さという課題について、その要因になっている川上(生産)から川下(流通)までの問題に、一社で的確に対応し、しかも、それをビジネスとして成り立たせている点である。アフリカ農業の生産性が低いのは、農家が肥料や高収量の種子などの農業資材を使わないことが大きいが、その大きな理由の一つは、農家にとっては大きな出費である肥料等を購入して生産しても、それを適切な価格で買い取ってもらえるか分からないことがある。これは、極めて構造的な問題であり、それを解決するには同社のように川上から川下まで一気通貫で対応しないと難しい(何か一つ欠けても解決できない)が、私の感覚では、国を挙げて解決に取り組むような難しい課題である。それを一社でというよりも、日本人の若者が一人で、農家の生活を改善したいという真っ当な目的意識の下、実際の農家の声をしっかりと聞き、農業資材で融資したり、農家情報をデータベースとして蓄積したりするなどのアフリカでビジネスとして成り立たせるための工夫をしながら、投資家から資金を調達し、取り組んで実績も出しているのである。すごいというしかない。その動機にしても、デザインにしても、アフリカのスタートアップの王道をいくものだと思う。二つ目の事例としては、投資家側の取組である神先孝裕、品田諭志、山脇遼介の三氏が立ち上げたKepple Africa Ventures*29を挙げたい。同社は、ア

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