ファイナンス 2023年2月号 No.687
75/106

令和4年度職員トップセミナー ファイナンス 2023 Feb. 71(7)アートを介して人と繋がる(8)デジタル環境を心の豊かさにも利用(9)達成目標としてKPIを設定人生百年時代においては、認知症の方々も当然増えて行くわけですが、高齢にともなって現れる症状である認知症は、必ずしもそれを病気だと割り切ることはできません。故に問題なのは、認知症であると診断されたその日から、財布を取り上げられたり、或いは外出を禁止されたり、様々なものが取り上げられてしまう、その人ができるはずのことまでとりあげられてしまう、料理もしないでください、火も使わないでください、となってしまうことです。そうなると、その人の出番や居場所が無くなっていってしまうのです。ではもっとその人が誰かと話をしたり、その人がもっと誰かと繋がっていられたりするような状態をどうやって作っていったらよいのか。そうなると、そこは施設とか、あるいは何らかの専門の人たちだけが対応すれば良いとなりがちですが、そうではなく、本当はそうした人と一緒に居れる社会をつくってくれる多様な人の存在が大切なのだと思います。例えばアートを介して人と人がつながることもそうですし、そんな関係をつくれるコミュニケータ―の役割がしっかり社会の中に文化として根付いて行くと良いなと思います。それと同時に、どこからでもその方々が社会とコミュニケーションを取っていけるようなディバイスの開発、プログラムの開発も同時に進めていくことが考えられるかと思います。ご覧いただいているのは東京都美術館が「いま何ができるか?」ということを考えて行ったプログラムです。ゴッホの展覧会に合わせて、オンラインで認知症の方とそのご家族とアートコミュニケーターとを結んで、一緒に作品を対話しながら鑑賞する機会をつくりました。「うちのおばあちゃんは家族以外の人と一生話せない」と思っていても、こういった機会があるだけで、家族の心もだいぶ違ってきます。また何より、当事者がイキイキと話し出すことに家族が驚きを隠せない様子でした。高齢になるにつれ、様々な身体的理由によって外出ができない、あるいは体が動かないということも同時に起こってまいります。そこで、これからの社会においては、メタバース(コンピュータの中に構築された、三次元の仮想空間やそのサービス)やデジタルツイン(現実世界の物体や環境から収集したデータを使い、仮想空間上に全く同じ環境をあたかも双子のように再現するテクノロジー)といった可能性について非常に注目していくべきことだと思います。こういったこれから研究・開発されていく領域においてこそ、単純に経済的生産性のみでの活用を考えるのではなく、人々の心の豊かさも、こういう環境の中でどう実現させていくのかということを同時に考えていかなければならないと思います。私共の達成目標KPI(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)についてご説明します。今の段階のものとしてご理解ください。まずはスモールサイズで考えてみることによって私共の考えに実装性があるだろうか、ということを検証しています。ご覧いただいているKPIに関する表の一番下に「社会的コストの削減マイナス250億円以上/年」という数値があります。この試算の根拠ですが、例えば毎年1万人の人が認知症になることを一年間先送りすることができると、認知症の方にかかる社会的なコストは一人当たり月23万円ほどでありますから、これが1万人ですと年間では250億円ほどになります。人生百年時代なので最後の10年間をどういうふうにして過ごしていくのかが非常に重要になる社会の中で、認知

元のページ  ../index.html#75

このブックを見る