ファイナンス 2023年2月号 No.687
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令和4年度職員トップセミナー ファイナンス 2023 Feb. 69(3)これからの社会を考える研究拠点づくり(4)イギリスでの取り組み:「社会的処方」真ん中の三分の一はその力を使って一生懸命働いたり、何かに貢献したり、活動的な時代になります。そして65歳以上になると退職したり体力が若い時よりも衰えたりしますが、人生はまだ残り三分の一あります。しかし「この残り三分の一に対する幸せな生き方とは何か?」という問いに対する提案ないし考えというものは、まだこの社会において十分議論されていないというのが現実だと思います。経済的な豊かさだけが私たちの豊かさなのか? 決してそうではないだろうし、社会的ステータスを高めることが充実感をもたらすか? と言えば、決してそうではないでしょう。それをもう一度見つめ直さなければいけないのがこの残り三分の一の人生です。そうした岐路にいる65歳以上の国民が、人口の三分の一を占める、それが2030年以降の社会です。故に幸せとは何かという問いは高齢者の方々だけが考えていけばよいという問題ではなく、社会全体で考えていかなければならないのです。そこで私共がこれから作ろうとしております拠点についてですが、学長が先程お話し申し上げた芸術という言葉が真ん中に溶けいるように、芸術だけではなくて、医療機関、福祉、テクノロジー、地域のコミュニティやネットワーク、自治体、海外の先進的な事例を研究している研究機関や市民NPO、こういった機関が集まって、垣根を溶かしてこれからの社会を考えて行くための研究拠点をつくろう、というのがこの「「共生社会」をつくるアートコミュニケーション共創拠点」です。様々な自治体やICTの分野の研究能力・開発能力を持つ企業、あるいはハブを持つ企業、或いは医療や福祉の研究機関になっている大学或いは研究機関等、病院等、あとは海外の先進的事例を持っている文化施設や研究機関等、こういった方々と具体的にコンタクトを取らせていただいて、実際にこのJSTの本格型に事業を進めることができれば、具体的な研究を開始する準備が概ね整っている状況です。どのようにして私共は孤独や孤立というものを研究機関の総力を挙げて解決していけばよいのか、その重要なソリューションのひとつに「社会的処方」があります。「社会的処方」についてご説明いたしますと、福祉大国、医療大国と呼ばれておりますイギリスでも、日本と同じように孤独や孤立の問題に直面しております。2つ前の政権において孤独担当大臣がイギリスにおいて設置されております。それに次いで我が国は孤独・孤立担当大臣を設置した2例目の国です。孤独や孤立というのはOECDの調査に当てはめますと、イギリスではだいたい320億ポンド、およそ4.9兆円の国家損失が孤独や孤立から生まれるという試算があります。こうしたイギリスにおいて具体的に行われている取り組みで、今世界的に注目を浴びておりますのが「社会的処方」です。これは我が国の厚生労働省等の文書においても、「社会的処方」を推進しよう、という動きが実際にございます。この「社会的処方」は何かと申しますと、例えば、眠れなくて病院に相談に来た患者さんに「睡眠導入剤を出しましょう」と医療的な処方をするのが今の医療ではスタンダードなのですが、よくよくこの患者の話を聞いてみると、10日間以上家族以外の人とほとんど話していない、外出する機会がほとんどない、つまりその方のQOL(Quality Of Life:生活の質)が非常に低い状態が結果的には身体的な疾病に繋がっていることが見て取れる。しかし、どうやったらその方を社会的にも精神的にも健康な状態にしてあげられるのか、という具体的なアプローチは今のところ十分ではありません。

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