ファイナンス 2023年2月号 No.687
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68 ファイナンス 2023 Feb.4. 「「共生社会」をつくるアートコミュニケーション共創拠点」(1)精神と関係性の貧困に対処(伊藤達矢 特任教授が説明)(2)「望まない孤立孤独」の問題ステークホルダーと共にビジョンを徹底的に深堀していく、ありたい社会像に向けて研究計画を更新し続ける拠点運営、等々を通じて人を変えていく、そしてそれによって大学が変わり、社会が変わっていく、ということをイメージしております。藝大では「「共生社会」をつくるアートコミュニケーション共創拠点」というプロジェクトに取り組んでおります。具体的には超高齢化社会に向けての藝大の取り組みというものが一番大きな社会的な課題解決のテーマになっております。この中には「文化的処方」「文化リンクワーカー」など藝大が今取り組んでいる目新しい言葉もありますが、この件について伊藤先生からご説明いたします。東京藝術大学の社会連携センターで教員をしております伊藤でございます。学長からご紹介のありました東京藝術大学の具体的な取り組みについてご説明させていただきます。JST(国立研究開発法人 科学技術振興機構)の競争的資金にエントリーさせていただきながら、「「共生社会」をつくるアートコミュニケーション共創拠点」という事業を準備しております。先ほど学長からも申し上げましたように、東京藝術大学ではSDGsを積極的に進めております。SDGsは2030年までのゴールでございますが、本当にSDGsを進めていくということは同時に2030年以降の社会についても考えていくことであると私共は考えております。SDGsの17のゴールというのは、主に物質的な貧困であったり、環境であったり、数値で測れるもの、手で触れるもの、そういった足りなさに目が向けられています。しかしながら、本当に人々の生活を豊かにしていくことを考えると、持続可能な社会というのは目で見たり、数字で測れたりするものだけではなくて、「人の心の貧困や関係性の貧困」というものに対してもきちんとアプローチしていく未来が必要なのではないか、と私共は考えております。学長が描いた藝大SDGsのマーク、17個の色のドローイングを見てみますと、真ん中のところで様々なものが溶けております。このドローイングから読み取れることは、私たちの社会にとってこれから必要なこと、それは課題を分けて考えることではなくて、その課題に向かい合う人や取り組みの壁を溶かして考えていくことなのではないかと思います。よって2030年以降のSDGsでは心のつながりに目を向けて「精神と関係性の貧困」を解決することが大切であると私たちは考えています。つまりは、あらゆる境界線が溶けていくことで、一人一人が新しい価値観と出会い、「ときめき」を感じながら生活できるような社会であって、多様性が認められ、そして、する側とされる側という二元性ではなくて、緩やかなつながりのもとにそれぞれの人たちが生きやすく、そして生きがいを持って生活できるような共生社会を作り出していかなければならないと考えます。しかしながらそうしたありたい社会像に向う上で大きな阻害要因となっているのが「望まない孤独や孤立」です。2030年以降は、65歳の方が31.8%以上と、国民の3人に1人が65歳以上になる社会が必ずやってきます。すると、退職や身体的な健康の衰えが原因となって、望まない孤独や孤立になりやすくなります。孤立は一日にタバコを15本吸うよりも健康に悪いという研究データもあります。また人生百年時代においてはこういった孤独や孤立が原因となって、認知症などの様々な疾病疾患が起こることが考えられます。こうした孤独や孤立の課題は福祉制度や医療体制だけではフォローしていくことができません。社会的な総合知を作ってこの課題に取り組んでいくことが今の世の中に非常に必要なのではないかと私共は考えております。先ほども申し上げたようにこれからは三分の一の方が65歳以上の社会になりますが、少し視点を変えると、人生百年と仮定して、人生を三つに分けますと、65歳からは、人生の残り3分の1の期間に相当します。つまり最初の約30年間、三分の一くらいは皆さん大学を出たり、就職したりして自分に生きる力をつけていく時代です。

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