ファイナンス 2023年2月号 No.687
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*29) https://www.fsb.org/wp-content/uploads/P010421-1.pdf*30) Berry et al. (2021)では「The method 2 score does not determine whether a bank is a GSIB:As mentioned in this subsection, the GSIB status is determined by the method 1 score alone. A bankʼs GSIB surcharge is the higher of the method 1 and 2 surcharges, which are increasing functions of the method 1 and 2 scores, respectively.」と指摘しています。 システム上重要な銀行入門ファイナンス 2023 Feb. 494.4 TBTF問題の実証分析4.5 FRBによるMethod 2前節では、ウィンドウ・ドレッシングの問題について一定の分析がなされている点を指摘しましたが、実証研究も進んでおり、2021年にFSB自身もTBTF改革に関する報告書*29を公表しています。例えば、ギリシャがユーロ圏に入ることで、その金利がドイツ国債の金利に収斂していった一因として、ギリシャが救済されることを考慮して投資家がプライシングを行ったことが考えられます。このように見ると、金融機関の調達コストに立脚することで、投資家がその発行体に対し、どの程度、救済の可能性を考慮しているかを測ることができます。植田(2022)では、このように調達コストに立脚したアプローチとして、IMFの国際金融安定性報告書(Lambert et al. 2014)の手法を紹介しています。具体的には、(1)欧米の大銀行とそれ以外の銀行における社債金利差を調達コストとして調べる、(2)大手格付け機関の格付けをリスクの代理変数として用いる、(3)格付けによらず銀行ごと、当局ごとの違いを反映させたTBTFによる調達金利の差を測る、というアプローチです。詳細は植田(2022)を参照していただきたいのですが、2010年代を通じて救済の可能性がある程度少なくなっていること、ただ、その可能性はまだ存在することなどを指摘しています。また、G-SIBsバッファーの影響についても一定の学術研究が進んでいます。例えば、Favara et al. (2021)は、米国のデータを用いて、G-SIBsバッファーは貸出に負の影響を与えたものの実体経済には影響を与えなかったと指摘しています。G-SIBsに対する資本バッファーを定めるうえで、米国ではFRBによる手法も用いれており、これをMethod 2といいます。具体的には、前節で説明したMethod 1とMethod 2により求められるCET1比率を比較し、より厳しい値が用いられます。服部(2022b)で記載したとおり、バーゼル規制は各国における最低限の規制であり、各国にはそれ以上に高い規制を課す自由が認められています。ここで紹介した国内基準が国際基準より厳しい場合のみ国内基準を採用するという米国の方法はその事例の一つと解されます。読者に注意を促したい点は、そもそもある米銀がG-SIBsとして指定されるかどうかはあくまでG-SIBスコア(Method 1)で定められる点です。G-SIBスコアが130以上である米銀をまずはG-SIBsとしたうえで、そのサーチャージの度合いについて、Method 1とMethod 2により求められるCET1比率を比較するということです*30。Method 1とMethod 2の重要な違いの一つは、Method 1は相対指数であるのに対して、Method 2が絶対指数である点です。富安(2023)はこの違いについて「すべての銀行が規模をふやせばMethod 1のスコアは一定であるのに対して、Method 2ではスコアが全員上昇してしまう」と指摘しています。前節で説明したG-SIBスコアは相対指数ですが、その背景には、当時、初めてG-SIBスコアを採用したことから絶対値に基づく指数を構築することが困難であったことなどが考えられます。もっとも、相対的ではなく、絶対的な意味で、各銀行のシステム上重要な度合いが上昇する可能性もあり得、Method 2ではこの点が考慮されているとみることができます。なお、Method 1とMethod 2にかかるその他の違いとして、Method 2では短期のホールセールファンディングへの依存度も考慮されており、評価基準は類似しているものの、異なる点がある点に注意してください。図表8は、Method 2の評価基準をみたものですが、Method 1と似通っているものの、そのウェイト等が異なる点、また、Method 2では「代替可能性」の代わりに「ホールセールファンディング」が考慮されていることが確認できます。Method 1の各項目の合計は100%になりますが、Method 2では各項目の合計が100%になるとは限らない点も確認できます。また、Method 2では図8に記載してあるとおり、固定の係数が用いられますが、これは2012年から2013年の集計データにより算出されています(詳細はFederal Register(2015)を参照してください)。

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