ファイナンス 2023年2月号 No.687
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*4) 詳細は服部(2022b)を参照してください。*5) Tier1資本が「生き延びるための資本」と解される理由については服部(2022c)を参照してください。*6) 危機に陥った企業や国に対して国や中央銀行・国際機関のような公的主体が資金を注入すること一般を「ベイルアウト」と呼びます。ただし、「ベイルアウト」という言葉は幅広い意味で用いられており、政府がリスクをとって資本を注入するような場合から、一時的な資金貸付のようなケースまで、幅広く用いられる傾向があります。*7) 「システム上重要な金融機関には追加的な資本賦課をすべきだ」という文脈で議論をしている際には「サーチャージ」という用語がしっくりしていたのでしょうが、未達になった場合の社外流出制限の掛け方が他のバッファーと一体とされることになってからは、「バッファー」の用語の方が混乱を招かないように思われます。 システム上重要な銀行入門ファイナンス 2023 Feb. 412.2 G-SIBs/D-SIBsバッファーTier1資本」(Common Equity Tier 1, CET1)*4をより一層求めることが考えられます。服部(2022c)で説明したとおり、Tier1資本とは、「生き延びるための資本*5」ですから、Tier1を厚めにすることは巨大な金融機関の破綻確率を低下させることにつながります。もっとも、仮に資本を厚くしたとしても、巨大な金融機関が倒産する確率をゼロにすることは不可能です。そこで、(2)仮に倒産したとしても、公的資金を使わず、株主と債券保有者にその損失を負担させる工夫も必要といえます。このように破綻に伴うコストを株主や債権者に負担させることを、ベイルアウト*6に対比させて、「ベイルイン」といいます。「ベイルイン」については、服部(2022c)で説明したとおり、金融危機以降の改革により、Tier2などの要件が見直されましたが、特に巨大な銀行について秩序ある破綻を可能とするため、現在、TLAC(Total Loss-Absorbing Capacity)規制と呼ばれる規制が追加的に課されています。巨大な金融機関の秩序ある破綻については今後の論文で取り上げることを予定しています。また、我が国については公的資金注入のスキームは残されていますが、この点についても今後の論文で取り上げます。ここから、金融機関の中でもバーゼル規制の対象となる銀行に絞り議論を深めていきますが、服部(2023)では、国際的に活動する銀行についてはCET1比率4.5%だけでなく、追加的な資本バッファーが求められることを指摘しました。服部(2023)では「資本保全バッファー」および「カウンターシクリカル・バッファー」を取り上げましたが、図表1の右上にある「G-SIBs/D-SIBsバッファー」がシステム上重要な銀行に対する追加的な資本バッファーです。システム上重要な銀行については、(1)グローバルの金融システムに影響を与える銀行と、(2)国内の金融システムに影響を与える銀行に分かれており、その対応が異なる点が重要な特徴です。例えば、日本のメガバンクなどが破綻した場合、国内だけでなく、海外でも多くのビジネスを行っていることから、国際的な金融システムに影響を与える可能性を有しています。このような銀行は、グローバルにシステミックな影響を与える銀行という意味から、「グローバルなシステム上重要な銀行(Global Systemically Important Banks, G-SIBs)」と呼ばれます(G-SIBsは「ジー・シブズ」と読みます)。一方、日本ではプレゼンスが高く、一定程度、海外展開はしているものの、他国の金融システムに影響を与えるほどではないという銀行も存在しています。当該銀行は国内の金融システムに影響を与える銀行という意味から、「国内のシステム上重要な銀行(Domestic Systemically Important Banks, D-SIBs)」と呼ばれます(D-SIBsは「ディー・シブズ」と読みます)。前述のとおり、金融システムへの影響が大きい銀行に対しては、追加的にCET1比率を高めることが要請されていますが、これを「G-SIBs/D-SIBsバッファー」や「G-SIBs/D-SIBsサーチャージ*7」などといいます。金融システムへの影響が大きい銀行に対し、より一層CET1比率を高める理念は理解できると思いますが、難しい点はどのようにシステム上重要な銀行を特定するかです。もちろん、資産などの点で規模が大きな銀行は、破綻した際、金融システムへの影響が大きいと考えられます。しかし、2008年の金融危機時には、リーマン・ブラザーズなどの投資銀行(証券会社)がシステミックリスクをもたらしたわけですが、資産の規模という観点のみで評価した場合、システム上重要な金融機関と認識されないリスクがあります。金融システムにおける伝播などの観点では、例えば、どれくらい他の金融機関と密接な関係を有しているかや、金融機関が有する複雑性、クロスボーダーでの活動などを考慮する必要があるといえます。現在、バーゼル銀行監督委員会(Basel Committee

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