ファイナンス 2023年1月号 No.686
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ファイナンス 2023 Jan. 68 令和4年度 上級管理セミナー (2)1回目の内部告発(3)2回目の内部告発(4)廃棄の決裁が面倒くさい品種偽装で何が行われていたかというと、例えば牧草用の種で在庫がない場合あるいは仕入れが困難になった場合に、草の種類が同じで品種が異なる種を、受注した品種名で偽って提供していたのです。種の生産は天候に左右されるので、在庫がない時があります。その時に、例えばチモシーという草の中にはクライマックスという品種とホクエイという品種があるのですが、顧客が「チモシーのホクエイをください」と言ってきたときに、ホクエイがなかった場合、クライマックスにホクエイのラベルを貼って顧客に提供するのです。あるいはホクエイが少し足りないから、クライマックスをブレンドしてホクエイですよ、と言って提供するのです。2014年8月に1回目の内部告発が北海道新聞に届きました。北海道新聞の記者からの照会を受けて、「社内で調査した上で回答する」と返答するとともに、社内で調査委員会が立ち上がりました。結論としては「2002年1月頃まで北海道で偽装があったが、それ以降はない」というものでした。なぜ2002年1月か? これは、グループの雪印食品において2002年1月に牛肉偽装事件が発覚して、それ以降は雪印グループとして偽装はやってはいけない、ということになったからです。実はそれ以降にも偽装はあったのですが、なかったことにしたのです。社内調査委員会において種苗課長が調査したところ、2002年6月に偽装の事例がありました。でも社内調査委員会は、これはグレードダウン、すなわち高いブランド種を安いブランド種の中に入れて売った、良いものを安く売ったのだから問題ない、という判断をしました。それから2004年以降の「疑わしい事例」も、特に直近では2012年2月にあったのですが、グレーではあっても黒ではない、ということで問題なしとされました。さらに調査委員会の中でいろいろな議論が出てきて、「資料の保存期限は10年だから、2002年6月の事例は12年前のことなので、この資料は廃棄済で、調査してもわからなかった」という説明をすることに決まりました。この時、調査委員会メンバーのA取締役が「でも実際に私が種苗課長だった時に偽装をやっていた。北海道新聞の記者が私のところに来たら、私は嘘を言うことはできない」と言いました。すると同じ役員をやっていたOさんが将来のエースと目されていたAさんに対して「待て、こんなことでお前を失いたくない。余計なことは言うな。」と言って、Aさんも引き下がりました。Aさんが偽装発覚時の社長なのです。そして社内調査委員会の結論を北海道新聞に伝えました。北海道新聞も「調査結果がそういう内容なら、記事にできませんね」ということで収まったのですが、「記事にならない、被害者もいない、それなら社告などを出す必要はない」ということになりました。2017年7月に「品質偽装がまだ続いている」という内容の2回目の内部告発がありました。今回は業界団体への情報提供でした。「偽装にかかわったのは歴代の種苗課長で、現在の代表取締役、監査役も含まれている」という中身の濃い内容でした。この告発者は2014年の社内調査報告書をたまたま読み、関係者が嘘ばかり言っていることに愕然として、告発したのです。情報提供された業界団体から「きちんと調査せよ」と指示されて、2回目の社内調査委員会が立ち上がるのですが、2014年の社内調査委員会では問題なしという結論が出ているので、それ以降の不正を調査する」ということにしたのです。そして社内調査委員会は「品種偽装はないものの、種苗法違反や社内規定違反が複数発見された」と報告しました。2回内部告発されて何もありませんでした、ではいかにも嘘っぽいので、「偽装はなかったけれど、別件で少し問題がありました、ごめんなさい」と持っていこうとしたのではないかと思います。この報告書を農水省に提出したところ、農水省が怒って「第三者委員会を設置せよ」と命令し、この第三者委員会で調査したところ、偽装が発覚したのです。こうして発覚したものの中に、裏ワザを用いた廃棄というものがあります。発芽率を基に種子を廃棄するかどうか決めるのですが、廃棄するときは仕入れ額に応じて本部長決裁、社長決裁、取締役会決裁となります。決裁を取るのは面倒くさいので、ロット統合処理

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