ファイナンス 2023年1月号 No.686
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ファイナンス 2023 Jan. 64 令和4年度 上級管理セミナー (1)脱脂粉乳が毒素に汚染される(2)大樹工場で停電発生、工場のライン停止2000年3月31日のことです。大樹工場の電気室に雪解け水が流れ込み、漏電防止装置が作動するなどにより、約10時間工場が停電となりました。(3)雪印乳業の厳しい出荷基準祥事は起きています。このように考えると、私は利益優先主義を最初に持ってくるのはあまり適切ではないのではないかと思うのです。私が本日申し上げたいのは「当事者の視点」に立つということです。「やらかしてしまったその当事者はなぜその時そういうことをしてしまったのか」という見方をしたいのです。企業の工場に見学に行くと、「新人ではなくてベテラン社員が、回転する機械の中に手を入れて手や指を切断してしまうことが意外にある」という話をよく聞きます。危ないと思って手を突っ込む人は多分いません。何らかの理由でその人は大丈夫だと思ってしまうのです。なぜ安全だと思ったのか、その認識のメカニズムを解き明かさないと、手を突っ込む問題はなくすことはできないと思います。不祥事もこれと同じことです。その時当事者は「どういう状況に置かれていたのか?」、また、「どういう心理状況だったのか?」を知る必要があるのです。すごく忙しい状況で、納期に間に合わせるのが大変だった、あるいは心理的に焦っていた、イライラした状態だった、そういうことがあるのではないかということです。また、「どういう思考パターンを持つのか?」も知る必要があります。コロナ前に企業でコンプライアンス研修をやっていた時に感じたのですが、本社事務・管理部門の人と話している時の感覚、営業部門の人と話している時の感覚、工場の現場で話している時の感覚、研究所の研究者と話している時の感覚が全然違うのです。同じ組織といってもその専門分野特有の考え方があるのです。さらに、「誤解や錯覚はなかったのか?」についても知る必要があります。こうした点を明らかにして潰さないと、私はその当事者はまたやってしまうだろうと思うのです。大事なのは「当事者はなぜ大丈夫だと考えたのか?」ということです。これが「当事者の視点」に立った不祥事防止策を講じるための基本ではないかと思います。これからいくつかの事例をお話ししたいと思います。1つ目が雪印乳業の事例です。「もったいないのワナ」が問題になる事例です。雪印乳業集団食中毒は、2000年6月に発生しました。当時あった大阪工場でつくられていた低脂肪乳などを飲んだ人たち1万3,420人が食中毒になりました。後で説明しますが、実は大阪工場は食中毒とは無関係だったのです。大阪工場では低脂肪乳などの製品をつくっており、その原材料となる脱脂粉乳は北海道の大樹工場で作られていました。この大樹工場でつくられた脱脂粉乳が毒素に汚染されてしまい、そのことに気付かないまま、大樹工場から大阪工場へ出荷され、大阪工場も脱脂粉乳が汚染されているという認識がないままそれを使って製品をつくり、食中毒を引き起こしてしまったのです。停電すると工場の製造ラインは全部ストップします。脱脂粉乳のラインも作業が止まってしまい温度管理がうまくいかなくて、黄色ブドウ球菌が増殖しました。停電復旧後、作業が再開されます。熱殺菌➡濃縮➡乾燥➡検査したところ、10時間放置されていたので、殺菌しきれずに1グラム当たり9万8千個の一般細菌が脱脂粉乳から検出されました。雪印乳業の脱脂粉乳出荷基準は(1)一般細菌数は1グラム当たり9千9百個以下、(2)大腸菌群が陰性、(3)黄色ブドウ球菌が陰性、というものでした。雪印乳業は当時トップの乳業メーカーでしたので、国が決めた基準よりも厳しい基準を持っていました。厚労省の基準では(1)一般細菌数は1グラム当たり5万個以下、(2)大腸菌群が陰性、これだけです。当時乳業メーカーで脱脂粉乳の出荷基準において黄色ブ3. 雪印乳業の事例: もったいないのワナ

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