ファイナンス 2023年1月号 No.686
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(図表3 公的部門純債務対GDP比(イングランド銀行を含む)は2023年度に101.9%と64年ぶりの高水準まで上昇するものの、その後は低下軌道をたどる見通し。)(図表4 量的緩和、CPI、政策金利の推移)ファイナンス 2023 Jan. 60(出典)英予算責任庁(出典)イングランド銀行より在英大作成 *18) エネルギー価格の高騰により異例の利益を上げるエネルギー企業に対する一時的な課税であるため、windfall tax(超過利潤税)と表現されている。*19) 英国のように通常時でも物価が上昇する国では、税率を区分する所得基準をインフレ率に合わせて引き上げず凍結すれば実質的な増税となり、とりわけ足元の高インフレの中では通常時を超える税収増につながると予測されている。*20) 英国の公的医療サービスであるNHSでは、コロナ禍に伴い通常の診療が受けられなかった待機者が700万人を超えると言われており、このバックログにより多くの労働者の健康状態が悪化し、労働市場からの退出を余儀なくされたことが労働力人口の減少につながっているとも指摘されている。税制面では、所得税・法人税といった主要税目の税率は引き上げないものの、実際には様々な増税策が盛り込まれました。具体的には、石油・ガス関連のエネルギー企業の法人税に上乗せされる収益負担金(Energy Profit Levy)*18を引き上げたり(25%→35%、2023年1月~)、自動車税(Vehicle Excise Duty)の免除対象となっている電気自動車(EV)を新たに課税対象としたり(2025年4月~)、所得税最高税率(45%)が適用される所得基準を引き下げたり(15万ポンド→約12.5万ポンド、2023年4月~)、所得税・相続税・国民保険料(National Insurance)における所得基準の凍結期限を2年間延長*19(2026年4月→2028年4月)すること等が発表されました。これらの増税策を通じて、2027年度には全体で250億ポンド(約4.2兆円)の税収増を実現するとしました。2020年以降の大規模なコロナ対策により、債務残高対GDP比が戦後最高水準に到達するなど英国の財政は厳しい状況にありましたが、ハント財務相は上記の施策を通じて中期的な財政健全化を図ることを明確にし、中期の財政ルールについては目標年度である2027年度よりも1年早い2026年度に達成する見込みとしました。こうした健全な財政の見通しが示されたことが評価され、英国の金融市場は現在のところ落ち着きを取り戻しています。 7 経済情勢英国の成長率は、ロックダウンといった厳しいコロナ規制の影響を受けた2020年の▲11%から2021年には+7.5%を記録するなど急回復を遂げていましたが、2021年後半から深刻なインフレに直面しており、2022年11月の消費者物価指数(CPI)は+10.7%と40年ぶりの高水準となっています。インフレの要因としては、ウクライナ情勢を受けたエネルギーや食料品価格の高騰、中国のコロナ対応によるサプライチェーンへの影響といったグローバルな要因が大きいですが、他の先進国とは異なる固有の要因も指摘されています。例えば、EU離脱を受けて欧州大陸からの移民が減少したことやコロナ・パンデミックを経て労働市場から多くの労働力人口が退出した*20ことにより労働市場が逼迫して賃金上昇圧力が高まっていることや、EU離脱により通関手続きが復活したことを受け、EUとの間の貿易コストが増加していること等が要因として指摘されています。英国の中央銀行であるイングランド銀行(Bank of England)は、目標としている2%を大きく上回るインフレを抑制するため金融引締めに転じ、2021年12月の金融政策決定会合で他の先進国に先駆けて利上げを決定して以降、9会合連続で利上げを実施し、政策金利はこの1年間で0.10%から3.50%まで引き上げられました。それでもインフレは収束する気配を見せ

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