ファイナンス 2023年1月号 No.686
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6 財政方針大規模減税策の公表に端を発する金融市場の混乱を経験した英国では、健全な財政の見通しを明確に示すことによって、金融市場を安定させることが最大の課題となっていました。(図表1 英10年国債利回りは9月下旬から10月上旬にかけて4.5%を突破した。)(図表2 英ポンドの対米ドルレートは9月26日に一時過去最安値の1.0327ドルまで下落した。)(出典)Bank of England Database(出典)Bank of England Database*13) 英国史上最年少は、1783年にわずか24歳で首相となったウィリアム・ピット(小ピット)。*14) 2021年10月にスナク財務相(当時)が発表した従前の中期財政ルールでは、今後3年間で政府債務対GDP比を減少させ、3年後までに経常的な予*15) ジョンソン元首相は、国防支出を2030年までにNATO基準を上回るGDP比2.5%まで引き上げると表明しており、トラス前首相はこれを更に上回*16) 2015年海外開発法(International Development Act 2015)はGNI比0.7%分をODA予算に充てると定めているが、コロナ・パンデミックに直*17) 歳出見直し(Spending Review)は今後3年間の支出計画であり、各年度の予算はこれに沿って編成される。算を均衡させる目標が設定されていた。るGDP比3.0%まで引き上げることを表明していた。面する中、2020年11月にスナク財務相(当時)がGNI比0.5%への減額を表明していた。皇后両陛下によるエリザベス2世女王国葬への御参列(2022年9月)と3回の大規模対応がありました。本国からの要請を踏まえて英国側との調整に当たるプロセスはチャレンジングなものですが、外務省のみならず様々な省庁や組織からの出向者と協力しながら要人対応に当たる作業は得難い経験となります。 59 ファイナンス 2023 Jan.辞任表明に追い込まれました。その結果、2022年7月まで約2年半にわたり財務相としてコロナ対応を指揮したインド系のスナク氏が、10月25日にアジア系初かつ近代最年少*13(42歳)の首相に就任しました。そのような中、2022年10月にトラス前政権下で財務相に就任し、スナク新政権でも財務相に留任したジェレミー・ハント氏は、まずクワーテン前財務相が公表した減税策の大半を撤回し、法人税率の引上げ(19%→25%)についても当初の予定どおり2023年4月から実施することを表明しました。更に11月17日、ハント財務相は議会下院で秋季財政演説(Autumn Statement)を実施し、「安定」「成長」「公共サービス」の3つを優先課題と明示し、インフレ対応に優先的に当たりつつ、歳出削減と増税を通じて2027年度に年間約550億ポンド(約9.2兆円)の財政健全化を図ることを表明しました。ここで「2027年度」とされたのは、同時に公表された中期の財政ルール*14において、今後5年間で政府債務対GDP比を減少させ、5年後までに政府借入をGDP比3%未満とする目標が新たに設定されたためです。歳出面では、医療・介護及び教育の分野に追加資金を配分しつつ、国防支出は少なくともGDP比2%*15にとどめ、海外援助予算についても財政状況が改善するまでGNI比0.7%の達成*16は困難であると明言しました。その上で、ほとんどの中央省庁について2021年10月の歳出見直し*17で設定された2024年度までの支出計画を維持することとしました。これにより、名目ベースの予算削減は行わないものの、インフレの上昇でコストが増加する中で実質的には厳しい効率化を各省庁に求めました。これらと併せて、2025年度以降の経常的な予算をインフレ率を1%上回る緩やかな引上げにとどめることにより、2027年度には300億ポンド(約5兆円)の歳出削減を実現することとしました。コラム2出張者の受入れ日本からの出張者の受入れも大使館の重要な仕事の一つです。財務班としては、財務省や金融庁からの出張者対応が主となりますが、大使館総動員で大規模な対応に当たることもあります。私の着任以降は、COP 26への岸田総理出席(2021年11月)、岸田総理による欧州訪問(2022年5月)、そして天皇・

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