ファイナンス 2023年1月号 No.686
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5 政治情勢議院内閣制を採用する英国では、下院(House of Commons、庶民院)と上院(House of Lords、貴族院)による二院制の下、下院の多数を占める政党から首相が選出され、内閣が組織されます。下院の選挙制度は小選挙区制のみであるため二大政党制となりやすく、第二次大戦後は保守党(Conservatives)と労働党(Labour)が政権を奪い合う形となっています。2010年から現在まで保守党が政権を握っており、労働党のほかに自由民主党(Liberal Democrats)、スコットランド民族党(SNP)、緑の党(Green Party)といった野党が存在します。下院議員の任期は5年間ですが、首相が下院を解散した上で総選挙に臨むこともあり、そうした点は日本の衆議院と似ていると言えます。他方、上院は議員が非公選の貴族により構成さ(写真4 エリザベス2世女王の崩御を受け、多くの英国人が女王の宮殿であるバッキンガム宮殿を訪れ、花を手向けた。)ファイナンス 2023 Jan. 58 *11) 1ポンド=168円として換算。以下同じ。*12) 2022年4月から実施されていた国民保険料引上げ(+1.25%ポイント)の撤廃(同年11月〜)、所得税基本税率の引下げ(20%→19%)の1年前倒し(2023年4月〜)、所得税最高税率(45%)の撤廃(2023年4月〜)、法人税率引上げ予定(19%→25%)(2023年4月〜)の撤回、不動産購入時に掛かる土地印紙税における非課税枠の倍増等。月6日に首相に任命した2日後の出来事でした。女王の崩御を受けてチャールズ皇太子がただちに国王に即位し、9月19日には各国元首が参列する中、ロンドンのウェストミンスター寺院で国葬が行われました。その後、女王の棺はウィンザー城に運ばれ、前年に亡くなった夫のフィリップ殿下のそばに埋葬されました。チャールズ3世新国王の戴冠式は、2023年5月6日にウェストミンスター寺院において行われる予定となっています。れ、原則として終身任期かつ無報酬であるなど、日本の参議院とはかなり異なるシステムとなっています。2010年の総選挙に勝利した保守党政権では、デービッド・キャメロン氏が首相となり、その任期は6年以上に及びましたが、2016年のEU離脱国民投票の結果、英国はEC時代も含めて50年近くにわたり加盟していた欧州連合からの離脱を選び、その直後にキャメロン氏は首相を辞任しました。後継となったテリーザ・メイ首相は、EU離脱の実現に当たりましたが離脱方針をまとめきれず、2019年7月にボリス・ジョンソン氏が後を継ぎました。ジョンソン首相は2020年1月末にEU離脱を実現し、その後は大規模なワクチン展開をはじめとしたコロナ対策の指揮に当たりました。しかし、コロナ・ロックダウン規制下の首相官邸パーティーへの参加で首相自身が罰金を科されるなど不祥事が相次ぎ、2022年7月には閣僚等の政務が続々と辞任したことを受け、ジョンソン首相自身も辞任を表明しました。これを受けて実施された保守党党首選では、リズ・トラス氏とリシ・スナク氏の2人の候補が1か月強にわたって政策論争を繰り広げました。中でも経済・財政を巡って両者は激しくぶつかり、トラス氏が即座の減税実施による経済成長の実現を訴える一方、スナク氏は財政規律を重んじる立場に立ち、インフレ抑制まで減税実施を待つべきだと主張しました。党員投票の結果、9月6日に首相となったトラス氏は、エネルギー価格高騰への対応として6か月間で約600億ポンド(約10.8兆円*11)に及ぶ光熱費支援策を就任2日後に発表し、2.5%の成長目標を掲げて過去50年間で最大規模となる450億ポンド(約7.6兆円)の減税パッケージ*12を中心とする成長戦略を9月23日に発表しました。しかし、この成長戦略は財源の裏付けや中期的な財政見通しを伴うものではなく、金融引締めを進める中央銀行の金融政策との整合性も疑問視されたことから、英国債金利の高騰や英ポンドの急落といった金融市場の混乱をもたらしました。トラス首相は、成長戦略を公表したクワシ・クワーテン財務相を交代させるなどしましたが状況を打開できず、10月20日に

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