ファイナンス 2023年1月号 No.686
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(数学私見)古代の数学の議論を見ると、数として整数しか観念せず例えば2と3との間の数は存在しない、「数」と「量」は別物で一緒に議論してはならない、のような今から見れば迷信的な扱いも見られた。数学が機械的でつまらないと感じる人がいるのは、逆説的だが数学が理屈に基づいて精緻に発展したことの成果とも言えよう。正三角形の対称性と2の3乗根の対称性の数学的同一性について、「2の3乗根を複素平面上に点描すると正三角形が誕生する」のを本書で目撃し、高校当時に興味津々だった複素数に興味を超えて震え驚嘆した。この驚嘆は民事訴訟法のT先生の大学3年の授業及び4年のゼミで「手続保障の第三の波は手続保障さえあればどんな判決も正当化する」との話に触れて以来である。他方、高校当時に数学の中で興味薄だった行列は、本書を通じて重要な道具であることは理解し多少の興味は持ったが、驚嘆レベルには及ばない。なお、西洋の数学が天文学をはじめ他の自然科学と相互に影響し合いつつ発展したとみられるのに対して、江戸時代の和算は他の自然科学とはほぼ無関係に発展した。一説には、平和な江戸時代の日本人が和算をクイズ的に楽しんだのが和算発展の原動力だったとか。学校の数学が不人気な一方、テレビのクイズ番組が相変わらず大人気なのは、江戸時代の日本人のDNA由来だろうか。の役割分担を意識した行為規範をきめ細かく探求すべきとする立場。主唱者は専門家の権威者目線を脱して市民の目線で民事訴訟を再構築すべきであると主張し、同時期の数学・統計学を駆使して驚かせた証明論共々、「民訴は眠素」と長年揶揄された民事訴訟法学界に大波を立てた。行列数や数式などを縦と横に配列し、全体を両括弧で括ったもの。あたかも一つの数のように見て、行列同士の加減乗除も行われる。行列の英語の原語(matrix)は「母体」に由来するので「行」や「列」と直接関係ない一方、mother、maternityとは類義語なので、行列の概念には新しいものを生み出すとの意味合いが込められていそうである。ファイナンス 2023 Jan. 48行元の財務省の使命「国の信用を守り、希望ある社会を次世代に引き継ぐ。」も、「各世代の社会」を集合とし「次世代に引き継ぐ」を関係性とする「圏」として捉えると、次世代に引き継ぐ行動の大切さが際立つ。既に言語学では、欧米語より非論理的と言われがちな日本語に「てにをは」が確固たる論理構造を与えていることや、「小腹が空く(「腹」が「小」さく「空く」ことであり「小腹」なるものは存在しない)」等のよく考えると不思議な表現の構造が圏論的視点から注目されている由。有識者さえも混同する「解放」と「開放」の正確な使い分けも圏論がヒントになるかもしれない。ビジネスの世界だと、「嗜好品の愛好家による応援活動」と「嗜好品の国内外での市場拡大」との関係とか、金科玉条化しつつあるE(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)の相互関係とか、圏論を用いて掘り下げた分析ができれば興味深い。各論に走るほど専門家の領域となり非専門家が口を挟みにくいが、圏論的アプローチで新たな真実が浮かび上がる可能性もある。この機会に圏論が勃興した20世紀半ば当時の日本について俄学問したところ、高名な哲学者・倫理学者の和辻哲郎が西欧の個人主義に批判的で、人は孤立した存在ではなく常に人と人との間柄においてのみ人間たり得るという「間柄的存在」の概念を提唱している。和辻は社会についても「(他者と区別された)人の集まり」のような閉じられた定義をせず「自分と他人の関係」という開かれた定義を与えた。和辻の思想は圏論のニュアンスに似ていると感じるのは評者の思い込みだろうか。複素数、複素平面複素数とは、実数と純虚数(実数×「マイナス1の平方根」を意味するi)の和でx+yiと表現される数のことで、虚数とも言う。複素平面とは、複素数x+yiを座標(x,y)に対応させた平面のこと。実のところ複素数はパソコン、携帯電話を含めITでは必須のようで、「虚」な数ではない。因みにi表記の由来となったフランス語の原語(nombre imaginaire)を直訳すれば「想像数」であり、何やら楽しそうである。手続保障の第三の波主役たる裁判所が当事者の紛争を解決する観点から形成された従来の理論・実務を、主役たる当事者間で紛争解決する観点から全面的に見直し、当事者

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