ファイナンス 2023年1月号 No.686
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5将来世代への責任歴史の転換点ともなり得る世界的な環境変化が急速に進行している中、今後新たに生じ得る危機に備え、レジリエンス(回復力)を高めていくため、財政余力を確保する必要性も高まっている。日本の財政が世界的に見ても最悪の状況にある中で、財政健全化の「旗」を下ろさず、これまでの財政健全化目標に着実に取り組むことを求めている。4PDCAの取組予算編成においては、予算の更なる効率化に向けて、予算がどのように使われ、どのような成果をあげたかを評価・検証し、次の予算への反映等を行っていくPDCAの取組が極めて重要である。具体的に事業の問題点を指摘・見直し・公表することを通じて、予算の透明化を図り、国民の予算・財政に対する理解・関心を高める契機とすることも重要であるとしている。(3)GDPギャップと財政支出 43 ファイナンス 2023 Jan.た債務残高は1,000兆円を超えるに至っている。それにも関わらず、名目GDPはほぼ横ばいのままである。経済低迷と財政悪化が同時に進行していたということにほかならない。名目政府支出の乗数効果も、趨勢的に低下してきている。少なくとも、この間の拡張的な財政運営は、持続的な成長にはつながっていないと述べている。また、単に財政支出を拡大することで経済成長を図ろうとしても、結果は望み難い。限られた財政資源を最適な形で配分するため、政策の優先順位付けとスクラップ・アンド・ビルドを通じて、真に効果的な施策への絞込みを行うなど、メリハリのついた予算を作成し、成果を挙げられる支出に重点化していく必要があると指摘している。大事なことは、歳出の中身を見直し、成果を出せるものとしていくことである。「規模ありき」ではなく、「アウトカム・オリエンテッド・スペンディング(成果志向の支出)」を徹底し、成果を検証していくことを求めている。近年、GDPギャップに着目して、「GDPギャップを財政支出で穴埋めすべき」といった議論がなされることがあるが、「供給と需要の差を財政支出で埋め合わせる」という対応では、資源の効率的な再配分を抑制し、経済の成長力を低下させてしまう。目指すべきは民間需要主導の経済成長であり、実施すべきは家計・企業の活力を引き出す政策対応である。民間需要の不足分を財政支出で補填し続けるような資金フローは望ましいものではない。財政支出の規模ばかり大きくしても、持続的な成長は実現できないと指摘している。また、予算編成プロセスで、行政事業レビューシートをより効果的にプラットフォームとして活用できるよう、行政事業レビューの質の向上を図ることが不可欠であり、予算編成プロセスで積極的に活用し、更なる改善点を明確に示すことによって、予算の質の向上に努めるべきであると指摘している。令和5年度予算編成も課題が山積しているが、特に、予算編成過程での検討事項とされた主要課題として、防衛力の強化、少子化対策・こども政策、GXへの投資がある。いずれも、日本の将来を左右する大事な課題であり、成果を挙げるために真に効果のある支出を積み上げていくことが求められる。その上で、これらの施策の充実を図るため、安易に国債発行に依存せず、安定的な財源を確保していくべきであると指摘している。また、長期低迷から脱却し、日本経済の成長力を高めるためにも、成果志向の支出を徹底する、日本が抱える脆弱性・リスクを放置せず、解消に向けて取り組む、市場の信認をしっかりと確保し続ける、そして、持続可能な財政・社会保障を将来に引き継いでいく。このように、今後の財政運営は、将来世代への責任を果たし得るものとしていくべきであると述べている。さらに、債務残高対GDP比を将来に向けて安定的に引き下げていくための重要な条件を整えるべく、まずは、2025年度のプライマリーバランス黒字化目標の確実な達成に向けて取り組む必要があると指摘している。政府としては、「財政に対する市場の信認」を維持し、「将来世代への責任」を果たしていくことを強く求める今回の建議を、厳粛に受け止め、今後の財政運営や令和5年度予算にしっかりと活かしてまいりたい。

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