ファイナンス 2023年1月号 No.686
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1財政に対する市場の信認(1)イギリスの混乱の教訓主計局調査課長 松本 圭介/課長補佐 和田 康宏 川原 英典調査第一係長 三重野 航/同係員 田中 颯馬 保田 紗里(2)市場動向と財政運営の基調変化(2)各国の具体的な取組例2インフレ・物価高騰等と財政(1) 欧米諸国におけるインフレの進行と財政 41 ファイナンス 2023 Jan.財政制度等審議会・財政制度分科会は、2022年9月から8回にわたって審議を行い、「令和5年度予算の編成等に関する建議」をとりまとめ、11月29日に鈴木財務大臣に手交した。本建議では、令和5年度予算編成の指針となるものとして、総論に加え、社会保障、地方財政をはじめとする10の歳出分野における具体的な取組が示されている。詳しい内容は建議本文をご覧いただくこととし、ここでは、特に財政総論の中でポイントとなる点をご紹介したい。まず、冒頭において、令和5年度予算は、我が国財政の長年抱えている問題と世界的な環境変化で新たに生じた課題のいずれをも真正面から受け止め、解決していく決意を示したものとしなければならず、そのことが、「財政に対する市場の信認」を維持し、「将来世代への責任」を果たしていくために不可欠であることを、強く認識すべきであると指摘している。ひとたび財政運営に対する信認が損なわれれば、市場は鋭く反応し、経済社会に不測の影響を与えかねず、9月以降のイギリスの状況は、日本にも重要な教訓を与えるものである。膨張する歳出を税収で賄えず、市場からの資金調達に大きく依存した財政運営を余儀なくされている現状では、市場の信認を維持し続けることが不可欠であることが、改めて確認されたと述べている。今後、日本においても、イギリスの混乱を他山の石とし、市場の不信を招かぬよう、責任ある財政運営を行っていくことを求めている。日本を取り巻く状況は変化し得ることに加え、財政状況を見ると、日本の債務残高対GDP比は世界最悪の水準であり、イギリスよりも格段に悪いことも直視すべきである。仮に、イギリスのように財政運営に対する信認が低下すれば、国債市場や為替市場にも影響が及びかねないとしている。近年では、従前と比べて突出した規模の補正予算の策定を繰り返し、その財源の大宗を国債発行によって賄う中で、短期債の発行額が大きく増えてきており、それは金利上昇に伴う影響を受けやすい資金調達構造になっているということでもある。今後、金利上昇局面が到来すれば、利払費の増大により財政運営に負荷がかかることは必至であり、こうした観点からも、毎年度の国債発行額をできる限り縮減し、債務残高を抑制していけるよう、不断に取り組んでいくべきであると指摘している。コロナ禍やロシアによるウクライナ侵略など、国際情勢は激しく変化している。経済面において欧米諸国が直面している課題は、インフレである。金融政策は引締めに転じており、金利も上昇している状況にあるとしている。世界は今、コロナ禍の時代とはフェーズが変わり、インフレ対策との整合性や、財政の持続可能性確保を意識した財政運営に転じていると述べている。各国の実際の取組状況からも、コロナ禍での例外モードから脱却し、更にインフレが進行する中で必要財政制度等審議会 「令和5年度予算の編成等に関する 建議」について

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