ファイナンス 2023年1月号 No.686
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32.521.510.5013図表8 カウンターシクリカル・バッファーの推移(%)14フランススウェーデン1516ドイツ英国17香港ルクセンブルク19182021(注) この図ではカウンターシクリカル・バッファーを変動させている主な国を掲載しています。各国の状況を知りたい読者はバーゼル委員会のウェブサイトを参照してください。(出所)バーゼル委員会*39) 英語であればFed Viewと通常記載され、FRBビューは和製英語といわれることもあります。例えば、陣内(2022)ではFedビューと記載してお*40) カウンターシクリカル・バッファーの効果については一定の学術研究がなされています。例えば、Auer et al. (2022)ではスイスにおいてカウンりますが、ここでは白川(2018)や秀島(2021)など、日本語でよく用いられるFRBビューという表現を用いています。ターシクリカル・バッファーが変化したことを用いて、銀行の貸出への影響を分析しています。4.3  カウンターシクリカル・バッファー導入の背景4.4  各国におけるカウンターシクリカル・4.5  政策ツールとしてみたカウンターシクバッファーリカル・バッファー我が国ではこれまでカウンターシクリカル・バッファーが0%に据え置かれていますが、今後、変化する可能性がありえる点に注意が必要です。ちなみに、日銀は金融システムレポートで、景気の過熱感などについてヒートマップで評価を行っています。秀島(2021)は、カウンターシクリカル・バッファーを設定するうえで、各国判断となった背景に、上述のような過大な与信などを防ぐという内容について、「FRBビュー(Fedビュー)」*39と「BISビュー」の対立があることから、合意形成が困難であったことを挙げています。「FRBビュー」とは事後対応を重視する考え方であり、「BISビュー」とは事前対応を重視する考え方です。陣内(2022)はこの両者について、バブルの存在をリアルタイムで検知できるかどうかの認識で、この両者の違いが生まれている点を指摘しています。バブルの存在を検知できるという立場なら、事前対応が望ましいことは明らかですが、検知できないという立場であれば、事後対応するしかないという整理になります。陣内(2022)はFRBでは検知不可能という見方が支配的であった一方、BISでは検知可能という見方が支配的であったとしています。秀島(2021)によれば、このような意見の対立がある中、カウンターシクリカル・バッファーの導入が可能となった理由として、まず、前述のとおり、各国での裁量とされたことから、合意が容易であった点を挙げています。また、「総信用/GDP」など貸出にかかる変数だけでなく、他の指標も参照した総合的な判断でバッファーの変動を決定するようになった点も各国で合意がしやすくなった点としています。秀島(2021)は、「バーゼル委のカウンターシクリカル・バッファーは、主としてFRBビューに配慮したマクロプルーデンス政策手段でありつつ、BISビューも取り込んだもの、と評価できるかもしれない」(p.122-123)と整理しています。この辺りの詳細を知りたい読者は、秀島(2021)の第2章を参照してください。我が国では前述のとおり、カウンターシクリカル・バッファーは0%に据え置かれていますが、既にカウンターシクリカル・バッファーを変動させている国も少なくありません*40。図表8はカウンターシクリカル・バッファーの推移をみたものですが、そもそもバッファーを変動させている国が少なくないこと、また、コロナ禍にバッファーを減少させる傾向があることも確認できます。一方、我が国のように0%に据え置いている国のほうが多数とも言えます。図表8をみると、欧州では導入が始まっているように見えますが、例えば、米国や香港以外のアジアの国では0%に据え置かれています。米国のように景気の過熱感が指摘されている国でも0%に据え置かれていることをみると、必ずしも各国で能動的にカウンターシクリカル・バッファーを用いているとは言えない側面もあります。前述のとおり、プロシクリカリティの問題はコロナ禍において様々な議論がなされました。資本保全バッファーの取り崩しが思ったより進まなかったなど、政策の設計時に企図された効果が得られなかったこともありますが、一方で、カウンターシクリカル・バッ 39 ファイナンス 2023 Jan.

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