ファイナンス 2023年1月号 No.686
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4カウンターシクリカル・バッファー4.1  カウンターシクリカル・バッファーとは現在のバーゼル規制では、資本保全バッファーに加え、カウンターシクリカル・バッファーも導入されています。カウンターシクリカル・バッファーの目的は、前述の通り、与信の過熱感などに応じて、政府の判断により、追加的に資本の積み増しを求めることで景気後退時の取崩し余地を確保しておき、その名の通り、金融機関の与信行動に対して半循環的な動きをつくる(与信の行き過ぎを防ぐ)ことを目的としています*36。アーマー等(2020)では、プロシクリカリティに備えるという観点では資本保全バッファーと同じであるものの、カウンターシクリカル・バッファーの場合、景気が良い状況を対象としており、「好況期に銀(出所)金融庁資料より作成区分総自己資本比率:4%以上8%未満Tier1比率:3%以上6%未満CET1比率:2.25%以上4.5%未満総自己資本比率:2%以上4%未満Tier1比率:1.5%以上3%未満CET1比率:1.13%以上2.25%未満総自己資本比率:0%以上2%未満Tier1比率:0%以上1.5%未満CET1比率:0%以上1.13%未満総自己資本比率・Tier1比率・ CET1比率のいずれかが0%未満第1区分第2区分第2区分の2第3区分要件経営改善計画の提出・実行資本増強計画の提出・実行配当・役員賞与の抑制 等自己資本の充実、大幅な業務縮小、 業務の全部又は一部の停止措置合併、銀行業の廃止図表6 国際統一基準行に対する早期是正措置*35) 日本経済新聞「大手行、早期に改善命令、金融庁、自己資本7%で新基準」(2015/3/6)などを参照。*36) ここでの表現は白川(2018)を参照しています。早期是正措置については、バーゼルⅢに合わせて見直されており、前述の社外流出制限措置についても、それまで存在していた制度を見直す形で導入されています*35。図表6が国際統一基準行における早期是正措置の具体的な区分ですが、自己資本比率が4〜8%になるなど、自己資本が薄くなった場合に、経営改善計画の提出や実行が求められます。自己資本比率が0%を下回ると、業務が全部または一部停止になるなど、金融庁によるワーニングも、資本が薄くなるにつれて次第に強くなります。このように、自己資本を当初厚めに求める一方で、資本が薄くなった場合、段階的に社外流出制限がかかり始め、さらに悪化した場合、経営改善計画の提出へ進み、場合によっては業務の停止などの措置が取られることになります。なお、実際に段階的に社外流出制限が課されるのは、金融機関が徐々に損失をしていくケースに限られる点にも注意が必要です。例えば、金融機関が貸出などで大きな損失をしたり、証券会社のように時価変動の大きい有価証券を在庫として持っているケースなどでは、一気に損失を計上する可能性もあります(実際、証券会社では数千億円の損失を急に計上するというケースも少なくありません)。そのため、場合によっては段階的な流出制限にならず、すべての条件が一気にヒットするということも起こりえる点に注意してください。行の貸出を抑制し、『バブルの崩壊』に備えることを目的としている」(p.453)と説明しています。秀島(2021)では、バーゼル委員会の意図としては、景気過熱の回避より景気後退時の悪影響の削減がカウンターシクリカル・バッファーの主たる目的であり、「バブルの発生を抑止することではなく、バブルが崩壊したときのためのバッファーを積み上げておくことが主目的であり、バブル形成過程の牽制は(あったとしても)副次的な効果」(p.122)と整理しています。繰り返すようですが、自己資本比率規制は、「自己資本/リスクアセット」という形で規制が課されているため、景気悪化時に、例えば、リスクアセットが増加し、「自己資本/リスクアセット」における分母が増加するなど、自動的に自己資本比率が低下してしま 37 ファイナンス 2023 Jan.

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