ファイナンス 2023年1月号 No.686
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「With the widespread impact of Covid-19 in March 2020, supervisors in some jurisdictions began imposing restrictions on banksʼ capital distributions, such as through dividends, share repurchases and bonuses (ESRB (2020); Svoronos and Vrbaski (2020)). By the end of April, 45 jurisdictions had implemented dividend restrictions, while 39 restricted share buybacks, with differing degrees of intensity. As these restrictions were announced and implemented, analystsʼ forecasts of 12-month-ahead dividends of large banks fell.」 資本保全バッファー(CCB)およびカウンターシクリカル・バッファー(CCyB)入門 ファイナンス 2023 Jan. 36*25) 詳細は下記のリンクを参照してください。 *26) Abad and García Pascual (2022)やChiarotti et al(2022)などを参照してください。*27) BCBS(2022)では「A number of academic studies within the EU, the United Kingdom and the United States, and the July 2021 BCBS report have found that, during the pandemic period, lending growth was weaker at banks that were closer to crossing their capital buffer thresholds than at banks with greater capital headroom. New empirical work, using the Committeeʼs global panel data set over an extended time period, although with less frequent and granular data than other studies, ■nds some indications of a positive relationship between capital headroom and lending.」としています。https://www.fsa.go.jp/inter/bis/20201201/20201204.pdf*28) BCBS(2022)は「New empirical analysis suggests that reductions in overall capital requirements helped banks sustain lending during the pandemic, echoing earlier findings in the July 2021 BCBS report. That said, the evidence that reductions in CCyB requirements can support lending is weaker than for other capital releases, perhaps re■ecting the more limited use of the CCyB across jurisdictions. Academic studies also tend to ■nd that capital releases support lending.」としています。*29) 日本経済新聞「米銀、貸倒損失最大74兆円、FRB、コロナ影響試算、配当・自社株買いを制限」(2020/6/27)を参照。*30) 例えば、Hardy (2021)では下記のようなコメントをしております。詳細は同論文を参照してください。 *31) なお、早期是正措置を捕捉する制度として、「早期警戒措置」が存在しています。早期警戒措置とは、金融機関の収益力など複数の指標に基づき、事前に金融機関にワーニングを発する措置になります。歴史的には、2002年に制定された金融再生プログラムの中で、早期是正措置の厳格化とともに、早期警戒措置が導入されました。服部(2022a)で説明したとおり、バーゼル規制は3つの柱で構成されていますが、「早期警戒措置」は第二の柱として位置づけられています。詳細は佐藤(2007)などを参照してください。*32) 池尾(2010)では、現代における望ましいプルーデンス政策の第一の柱は、銀行の自己資本充実度と内部統制(リスク管理)体制に関する公的当局による監視活動とする一方、第二の柱は、事後的な対応の面での早期是正措置としています。詳細は同書の第7章を参照してください。*33) 池尾(2009)では「金融機関は、自らの資産の健全性について自己査定すること(その妥当性に関しては、外部監査による承認が必要とされる)が求められるようになり、その結果算出された自己資本比率が一定値を下回った場合には、監督当局への業務改善計画の提出その他必要な是正措置の命令を受けることになる。それでも改善が実現されなかった場合には、破綻処理に移行することになる」(p.97)としています。*34) ここの記述は池尾(2009)を参照しています。議論のとおり、資本保全バッファーは、本来、通常時に資本を積み上げておくことで、コロナ禍などストレス時に、貸出低下を抑えることが企図されていました。事実、各国中央銀行・規制当局は、コロナ禍において「バーゼルⅢの資本及び流動性バッファーは、銀行がショックを吸収し、信用力の高い家計や企業への貸出を継続するのに役立つ。現在は、資本及び流動性リソースをこのように用いることが優先されるべきである。GHOSのメンバーは、現在のストレス期において、かつコロナ危機が収束するまでは、これらのバッファーを慎重に取り崩すことが適切であるというバーゼル委による度重なるガイダンスを強く支持する」などとアナウンスしています*25。その一方、BCBS(2022)では、独自の分析に加え、複数の学術研究*26に立脚しながら、要求資本に対して資本がギリギリである銀行は危機時に貸出を減らす傾向を指摘しています*27。また、BCBS(2022)では、短期的に要求資本を減らすことは、危機時において一定の効果があった点も指摘しています*28。コロナ禍において、そもそも規制当局により、金融機関の配当停止がなされた国がある点にも注意が必要です。例えば、米国では大手銀行に対しストレステストを実施したうえで、景気悪化等による損失を考慮し、配当総額を過去4四半期の平均利益を超えないよう求めるほか、自社株買いの制限を行っています*29。また、欧州中央銀行(ECB)についてもストレステストに立脚しながら、コロナ禍において配当や自社株買いの停止を求めました*30。これらは資本保全バッファーが企図した社外流出制限を、バーゼル規制とは異なるフレームワークで規制当局が直接求めているとみることができます。なお、筆者の理解では我が国ではこのような措置は実施されていません。*31*32*33*34BOX 2 早期是正措置について本稿ではCET1比率が4.5%から7%になった場合、段階的に社外流出制限が課されることを説明しましたが、自己資本が薄くなった時の段階的な措置として、早期是正措置も重要です*31。池尾(2010)は、早期是正措置を銀行のモラルハザードを防ぐための措置と位置づけています*32。金融機関が債務超過に陥り、失うものがなくなった場合、一か八かの投資を行うなど、リスクテイクを増やす可能性があります。したがって、経営破綻状態に陥った銀行を直ちに閉鎖ないし適切な再組織化の措置をとることは金融システムの健全性に寄与すると考えられます*33。歴史的には、日本では金融機関が破綻しない(破綻させない)ことを前提に金融行政が運営されていましたが、1990年代になり不良債権問題が深刻化する中、破綻処理制度が確立しました*34。早期是正措置は1998年4月に導入されています(金融機関の破綻処理制度については今後の論文で取り上げます)。

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