ファイナンス 2023年1月号 No.686
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*24) ここでの記載は、日本銀行・金融庁(2020)に基づいています。詳細は同論文をご覧ください。 *20) 白川(2018)は、我が国ではかつて金融機関の資本が不足していたにもかかわらず、その不足額がわからないという期間が長く続いたことを指摘し*21) この節の記述は、吉川(2019)を参照しています。*22) https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/bcreg20200810a.htm*23) 「最大支払額」は「capital distribution (配当+自社株買い等)+ discretionary bonus payments」になります。詳細は下記の定義を参照してくています。また、同書は、米国において銀行の国有化という選択をしなかったことも評価しています。ださい。「The Capital Plan Rule sets forth certain restrictions on capital distributions. Under the rule, a capital distribution means “a redemption or repurchase of any debt equity capital instrument, a payment of common or preferred stock dividends, a payment that may be temporarily or permanently suspended by the issuer on any instrument that is eligible for inclusion in the numerator of any minimum regulatory capital ratio, and any similar transaction that the Federal Reserve determines to be in substance a distribution of capital.”」https://www.federalreserve.gov/publications/comprehensive-capital-analysis-and-review-questions-and-anwers.htm「Maximum payout ratio. The maximum payout ratio is the percentage of eligible retained income that a Board-regulated institution can pay out in the form of distributions and discretionary bonus payments during the current calendar quarter. For a Board-regulated institution that is not subject to 12 CFR 225.8 or 238.170, the maximum payout ratio is determined by the Board-regulated institution's capital conservation buffer, calculated as of the last day of the previous calendar quarter, as set forth in Table 1 to paragraph (a)(4)(iv) of this section. For a Board-regulated institution that is subject to 12 CFR 225.8 or 238.170, the maximum payout ratio is determined under paragraph (c)(1)(ii) of this section.」https://www.ecfr.gov/current/title-12/chapter-II/subchapter-A/part-217/subpart-B/section-217.113.4  コロナ禍に問題となったバッファーの「利用可能性」なうことができるというバックストップが存在することによって、金融機関の存続可能性の不確実性が解消した」(p.275)と整理しています*20。その後、米国では、本稿で説明したCCARを年1回実施しています*21。2012年からドッド=フランク法が要請するストレステストが開始されました。2020年には本稿で説明したストレス資本バッファーが最終化され、現在、実施されています*22。富安(2023)によれば、外資系金融機関の経営において配当支払いが重視されるため、配当の支払いを直接規制するストレス資本バッファーの影響は看過できない存在になっているとしています。同書によれば、例えば、資本保全バッファーを50%使用する場合、最大支払額が一定の留保利益の20%になるなど、バッファーの使用率によって最大支払い額*23が制限されるよう規制されています。これは本稿で記載した資本保全バッファーと同じ性質を有しているといえます。同書は、外資系の金融機関はこのバッファーの管理に力を入れているものの、ストレス資本バッファーはストレステストの結果次第で1%程度変動することも多いため、コントロールが難しいとも指摘しています。また、吉藤(2020)は、CCARについて「FRBが使用している評価モデルは、ブラックボックスであるため、金融機関は定量基準をクリアすべく、より厚めの資本を積む傾向にあり、資本効率の悪化につながっている可能性もある(その分、健全性が増しているとみることもできるが)」(p.182)と指摘しています。我が国におけるマクロストレステストの現状なお、我が国では、米国のような金融規制とリンクしたストレステストは実施されていません。その一方、日銀は、金融システム全体の安定性を分析・評価するという観点から、自らのモデルを用いてマクロストレステストを実施しており、その結果を「金融システムレポート」で公表しています*24。また、金融危機以降、米国を筆頭に国際的にストレステストが重視される中で、日銀と金融庁は、「金融庁・日本銀行連絡会」などを通じて、意見交換をし、共通シナリオに基づく一斉ストレステストを定期的に実施しています。具体的には、日銀と金融庁が大手銀行に共通のシナリオを提示して、その結果の報告を受ける等です(詳細が知りたい読者は、日本銀行・金融庁(2020)を参照してください)。なお、前述のとおり、そもそも民間金融機関は独自のストレステストを実施することでリスク管理をしており、その結果はディスクロージャー誌やインベスター・リレーションズ(IR)の資料などを通じて一定程度開示されています。最後にコロナ禍で話題になった議論を紹介します。前述のとおり、損失により資本が棄損され、資本保全バッファーに食い込み始めると、配当の制限などが求められますが、銀行はこれを不名誉(スティグマ)と捉える傾向があります。そのため、銀行は資本保全バッファーを取り崩すのではなく、資本保全バッファーを維持するため、貸出などを抑制する可能性が指摘されています。このような論点は、バッファーの「利用可能性(Buffer Usability)」とも表現されます。これまでの 35 ファイナンス 2023 Jan.

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