ファイナンス 2023年1月号 No.686
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*12) 社外流出制限の対象は、府省令1条15項で定められています。詳細は吉良(2016)などを参照してください。*13) 詳細は下記をご覧ください。 *14) https://www.federalreserve.gov/newsevents/pressreleases/■les/bcreg20200304a1.pdfhttps://www.federalreserve.gov/publications/■les/large-bank-capital-requirements-20220804.pdf(出所)金融庁資料より作成(出所)FRB資料より抜粋*144.5%以上5.125%未満5.125%以上5.75%未満5.75%以上6.375%未満6.375%以上7%未満CET1比率7%以上社外流出の制限割合100%80%60%40%0%図表4 CET1比率と社外流出制限の関係図表5 ストレス資本バッファーのイメージ3.3  米国におけるストレス資本バッファーとストレステスト政策は、2008年の金融危機時に、公的資本の注入をうけた銀行が巨額の配当等をし続けた反省からも来ています(我が国においてもかつて公的資金の注入を受けた金融機関が配当を支払うことについての批判がありました)。国民の資金である公的資金を用いて資本を厚くしたにも関わらず、配当を行うことで資本を薄くしているとしたら本末転倒といえるでしょう。したがって、仮にCET1比率が4.5%以上であったとしても、それ以上に一定のバッファーを設け、そのバッファーが薄くなっていく中、段階的に社外流出を防ぐ措置が導入されたといえます。配当の支払いについては会社法で一定の制限が課されています。もっとも、会社法のみの規制に準じるのであれば過去計上した利益からなる利益準備金などからも配当が可能であり、資本が薄くなる中でも配当がなされる可能性があります。そのため、金融庁告示を通じて、国際統一基準行に対してはプルーデンスの観点から、資本保全バッファーの確保および配当などの社外流出制限が求められています。社外流出制限措置については資本の棄損とともに段階的に制限されると説明しましたが、図表4のように定められています。CET1比率が7%の場合は、社外流出制限の割合は0%ですが、CET1比率が7%と4.5%の間の区間については四等分し、6.375%以上7%未満になった場合、社外流出制限の度合いが40%になるなど、CET比率が7%を割る度合いに応じて、社外流出の制限度合いが増える形になっています。制限される社外流出については、配当や自社株買い等、CET1の減少を伴う行為とされています*12。社外流出制限措置の詳細やその運用を知りたい読者は、吉良(2016)を参照してください。我が国における資本保全バッファーは国際統一基準行に対し2.5%だけCET1比率が上乗せされており、これは国際合意に沿っています。もっとも、服部(2022a)で指摘したとおり、バーゼル規制は各国における最低限のルールを規定するものですから、国際合意以上の規制を課すことは認められています。事実、海外ではもっと厚い資本バッファーが課されているケースもあり、その代表例が米国です。米国では大手銀行に対し、ストレステストの結果見込まれる損失に加え、4四半期分で見込まれる配当をカバーする金額が資本バッファーとして求められており、これを「ストレス資本バッファー(Stress Capital Buffer, SCB)」といいます。これまで説明してきた資本保全バッファーは、ストレス資本バッファーの下限を2.5%とすることでこの枠組みに統合されています(図表5を参照)。どの程度ストレス資本バッファーが求められるかは、FRBのウェブサイトを通じて開示されています。2022年10月時点では、例えば米国大手投資銀行であるゴールドマンサックスは6.3%、モルガンスタンレーは5.8%の追加資本が求められています(2.5%になっている銀行もあります)*13。*14このように米国のストレステストは大手行にとって追加的な資本バッファーと直結しているのですが、米国におけるストレステストを利用した資本政策のレビューは、包括的資本分析およびレビュー(Comprehensive Capital Analysis and Review, CCAR)と呼ばれていま 33 ファイナンス 2023 Jan.

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