ファイナンス 2023年1月号 No.686
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5おわりに今回の本会合はFTA設立20周年の記念すべき会議であった。寄稿にあたり過去のFTA本会合に関する記事を参考にさせていただいたが、税務行政の発展とともにFTAでの議論内容も大きく変化してきていることを改めて実感した。今回のFTAの成果としては、国際課税ルールの大きな変更に向けて執行面の課題を確認し、キャパシティビルディングやデジタルトランスフォーメーションも含めて多国間協調の重要性に合意したことが挙げられる。各国の税務当局は大きな分岐点に差し掛かっていると言えるが、今回のFTAは、税務当局を取り巻く状況や今後の課題について各国長官が認識を共有するとともに、FTAとして更に国際協力を進めていく姿勢を対外的に示す好機となったと考えられる。今後は、FTAの作業部会等で引き続き各国間で議論が行われていくことが期待されるが、各取組の効果的かつ円滑な実施には、税務当局間の信頼関係の構築が必須である。この点においても、各国の長官や担当者が一堂に会するこの会議には重要な意義があると言える。カナダのハミルトン長官(FTA議長)と阪田長官第15回OECD税務長官会議ファイナンス 2023 Jan. 28 今回のFTA本会合では、民間企業の参加者から意見を聞く機会もあり、特に二つの柱の執行やデジタルトランスフォーメーションにおいては、経済界との協力の重要性についても議論が行われた。一見、ビジネスと税務行政は相反する立場にあると思われがちだが、税務当局にとって経済界とのコミュニケーションを図り協調していくことは、コンプライアンス水準を維持しながら、納税者・税務当局双方のコストを最小化し円滑に行政を進めていく上では有益であると言える。なお、経済界からも議論に参加してもらうことは、FTAの議長であるカナダの長官及び今回の本会合のホスト国であり副議長でもあるオーストラリアの長官たっての希望だったそうだ。また、前回のオンライン会合で初めて行われた、参加国をいくつかのグループに分けてフリーディスカッションを行うブレイクアウトセッションは、対面での開催となった今回も実施された。少人数でフリーディスカッションを行うことで、全体の議場では聞けない各国のより詳細な施策・考え方等を共有することができ、大変興味深いセッションであった。個人的には、各国長官の前で国税庁の人材育成についてプレゼンを行うという大変貴重な経験をさせていただいたが、プレゼン後に様々なフィードバックを頂けたこと、いくつかの国の長官と直接意見交換ができたことも大変有意義であった。FTAは設立初期より各国のベストプラクティスを共有する場を提供してきたが、特にパンデミックにおける対応やデジタル化などにおいてその重要性を再認識した会議であった。長官同士のコミュニケーションはもちろんだが、計150名以上の各国からの参加者と自由にコミュニケーションをとれる場は大変貴重である。会議期間中に親しくなったカウンターパートとは、税務行政における国際協力の更なる促進に貢献できるよう、引き続き良い関係を築いていきたいと思う。国税庁としては、FTAの議論に引き続き積極的に貢献していくとともに、国際的な場で議論されていることを国内の税務行政にフィードバックしていくことも重要である。特に、我が国と同様の課題に直面している各国税務当局の経験は、我が国にとっても非常に有益である。国際的な議論を国内の税務行政に活かしていくことを意識しながら、引き続き業務に取り組んでいきたい。

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