ファイナンス 2023年1月号 No.686
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議場で発言する阪田長官*5) OECDのBEPS(Base Erosion and Pro■t Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトの勧告(行動13「多国籍企業情報の文書化」)を踏まえ、*6) 外国の金融機関等を利用した国際的な脱税及び租税回避に対処するため、OECDにおいて公表された、非居住者の金融口座情報を税務当局間で自動的に交換するための国際基準である「共通報告基準(CRS:Common Reporting Standard)」のこと。この基準に基づき、各国の税務当局は、自国に所在する金融機関等から非居住者が保有する金融口座情報の報告を受け、租税条約等の情報交換規定に基づき、その非居住者の居住地国の税務当局に対してその情報を提供する。平成28年度税制改正により整備された、多国籍企業情報の報告制度(最終親会社等届け出事項、国別報告事項及び事業概況報告事項)のこと。(4)キャパシティビルディング(5)税務行政におけるその他の課題 25 ファイナンス 2023 Jan.の技術的スキルの向上も必要であり、変化に迅速に対応できる人材の発掘と育成も重要な課題である。DXにおいては、税務当局内のみでなく外部の適切な人材や専門家にも参加してもらう必要があるが、リソースには限界があるため、優先的に取り組む分野を特定する必要がある。また、DXにおいて各国当局が目指すべき方向性については共通のビジョンがあり、各国担当者間での議論が有益であること、また最も重要な分野に効果的にリソースを投入できるよう、戦略的枠組が今後重要となることを踏まえ、今回の会合では今後のDXにおける戦略的枠組を作成するためのワーキンググループの設立が提案され、承認された。同ワーキンググループで策定される戦略的枠組については、次回FTA本会合で各国長官の承認を得ることを目指すとされた。税務当局のキャパシティビルディングにおいては、ニーズが非常に多様であること、各国の状況が異なることを認識した上で、優先的に取り組むべき分野について意見交換が行われた。キャパシティビルディングは多国間で協力する共同プロジェクトとして捉えられ、各国が直面する課題と優先分野を特定して、IMFや世界銀行等他の組織とも連携しつつ実施することの重要性が確認された。また、従来の課税に関するキャパシティビルディングのみでなく、デジタル化や技術面での支援についても考える必要があるとの指摘があった。今後のリスクとしては、多くの国で二つの柱の実施に向けた検討が十分にできていないことが挙げられた。二つの柱のルールの適用や運用について正しく理解することが税務当局にとって非常に重要であり、これまで行ってきた取組を継続しつつ、二つの柱の実施に向けて直面している様々な課題に対応できるような新たな方法を考える良い機会であるとの認識が示された。特に先進国では、既存のレガシーシステムの存在が足かせになってしまう可能性も指摘された。途上国からは、多くの場合最も大きな課題は財政面と人的資源であること、また上記二つの柱の解決策を実施するためのキャパシティビルディングのみでなく、例えば情報交換や租税犯罪捜査、複雑な移転価格税制、データの収集と活用方法といったその他重要分野におけるキャパシティビルディングの必要性についても言及があった。複数あるキャパシティビルディング実施機関とも連携しつつ、各国が何を求めているか、何を必要としているかを正確に理解した上で、各国にあった方法で行う必要があることが改めて強調された。上記のほか、CbCR*5やCRS*6の有用性、情報交換の枠組の活用、実質的支配者情報の把握等、税の透明性向上に向けた議論も行われた。また、税務行政への信頼をどう高めるかについて、税務行政の透明性の向上や社会規範・文化的影響に焦点を当てて意見交換が行われた。透明性の向上は信頼につながる最も重要な要素の一つであること、透明性確保のためには納税者とのコミュニケーションが重要であること、納税者のコンプライアンスには文化的背景や他の納税者の行動の影響も大きいこと、そして税務当局への信

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