ファイナンス 2023年1月号 No.686
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第15回OECD税務長官会議ファイナンス 2023 Jan. 24 *4) 国際的コンプライアンス確認プログラム(International Compliance Assurance Programme、ICAP)は、FTA傘下のプロジェクトの一つで、特定の多国籍企業グループについて、複数の税務当局が同時・協調的に移転価格リスクや恒久的施設関連リスクに関する評価を行い、リスクがない又は低いと認める場合には、その旨を確認する取組。(2)二つの柱の解決策の実施(3) 税務行政のデジタルトランスフォーメーションカッションを行うブレイクアウトセッションでは、税務当局の組織、職員または納税者の観点から、パンデミックを経て変化したことについて意見交換が行われた。在宅勤務等により職員の働き方が大きく変わり、ITシステムのアップデートや人材育成方法の見直しが必要となったこと、マネジメントや人材確保が難しくなったことが共有された。中にはパンデミック中は税務当局が給付金の支給を担った国もあり、税務当局に求められる役割についても議論された。パンデミックによって、納税者サービスにおいてはスムーズに多様なサービスを負担感なく利用できること、そして正確性が重要であることが明確になり、より早く、より確実に物事を進めることを期待されるようになったことから、納税者とのコミュニケーションの重要性もさらに高まったと言える。二つの柱の解決策の実施にあたり、税務当局としての課題を議論した。特に、より議論の進んでいる第2の柱の執行にあたり、税務行政が直面する課題やルールの導入に向けた準備状況について共有・意見交換が行われた。第2の柱の導入における主な課題としては、多国籍企業グループの親会社に適用される各国の会計基準に対応する必要があることから、税務当局職員の能力向上及び事務負担を軽減するためのITツールのアップデートが挙げられた。第2の柱は単に国内の問題ではなく、実施においては他国の制度を理解する必要があり、各国の会計基準や税制等様々な知識が求められる。このための人材育成が先進国含め各国において課題となっているが、特に途上国では、そもそもの人材が不足している点も大きな問題であることが指摘された。多様な国・人が共に対応することになるため、これまで以上に国際協調・途上国支援が重要となる。そのためにも、各国の取組を共有してお互いから学ぶ場としてFTAを活用すること、さらにICAP*4等の既存のネットワークや枠組みを活用していくことの重要性が確認された。本件に関しては、企業側出席者からも積極的に発言があった。企業間でも意見の相違はあるものの、最も懸念しているのは制度の不確実性、複雑性、及びデータの3点。企業側は、いつ・どのように新しい制度が導入されるか、企業側が遵守しなければならないことは何か、ということを最も不安視しており、企業が遵守しやすいシンプルな制度にしてほしいという意見が出された。さらに、デジタル化の文脈でも重要であり、他の業務のデジタル化とも最終的に調和して機能する必要があることが指摘された。企業においては国別に子会社情報を収集・調整・集計して税務当局に申告する必要があり、また税務当局においてはその情報を関係各国に共有する必要があることから、セキュリティや膨大な量の情報を交換することへの懸念も共有されたが、デジタル化と自動化がGloBEルールの導入をサポートする可能性、また二つの柱の解決策の実施によってDXを促進させることができる可能性についても確認され、税務当局と納税者双方の負担を最小化することの重要性に合意した。第1の柱においてはまだ中身の議論が継続しているが、制度の円滑な導入・執行の観点から、税務行政側の考え方・意見を早い段階から議論にインプットしていくことの重要性に合意した。出席者からは、制度設計の担当者のみで話が進んでしまうと、執行の段階になって早期の実施が求められても対応が難しいことや、税務当局は既に多様な業務・課題を抱えており、それに加えて二つの柱を実施することへの不安について多くの発言がなされた。各国における税務行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)に関する取組の共有が行われた。共有された取組は、ITインフラの整備や申告等各種手続のオンライン化、納税者サービスのデジタル化、非対面方式での税務調査、データ収集及び人工知能や機械学習の活用、電子インボイスの導入等多岐にわたった。税務行政のDXにおいては、銀行や決済サービス業者、デジタルプラットフォーム等多くの関係者との協力が必要であることが確認された。また、職員

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