ファイナンス 2023年1月号 No.686
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第15回OECD税務長官会議ファイナンス 2023 Jan. 22(1) 「第1の柱」「第1の柱」は、新たな多数国間条約の締結により、グローバル企業グループが物理的拠点(恒久的施設、Permanent Establishment:PE)なしに活動する市場国に対しても新たに課税権を配分する制度である。恒久的施設によって課税権を基礎付け、独立企業原則によって利益の帰属を決定してきた従来の考え方を一部見直し、市場国での収入閾値に基づく課税根拠(ネクサス)と収入の源泉(レベニューソース)ルールにより、グローバル企業グループの一定の利益を市場国へ配分する内容となっている。当初は全世界収入が200億ユーロ超かつ利益率が10%超のグローバル企業グループを対象とし、条約発効の7年後にレビューを行い、円滑な制度実施を条件に、収入閾値を100億ユーロに引き下げることを予定している。令和5年前半までに多数国間条約の署名、令和6年に多数国間条約の発効を目標として引き続き議論が行われている。なお、このルールが実施される際には、一部の国において実施されているデジタルサービス税のようなその国独自の課税措置(一方的措置)は撤廃されることとなっている。(2) 「第2の柱」「第2の柱」は、各国・地域による法人税の引下げ競争に歯止めをかけること、及び税制面における企業間の公平な競争条件を確保することを目的として、軽課税国において国際的に合意された最低税率(15%)での課税を確保する制度で、軽課税国に所在する子会社等の税負担が最低税率に至るまで、親会社所在地国で課税する制度(所得合算ルール)を基本のルールとしている。グローバル・ミニマム課税(Global Anti-Base Erosion Rule:GloBEルール)と呼ばれており、年間総収入金額が7.5億ユーロ以上の多国籍企業を対象としている。このGloBEルールについては、モデルルール及びコメンタリーが既に公表されており、日本では、令和5年度税制改正の大綱において所得合算ルールに係る法制化が盛り込まれている。 (2) 税務行政のデジタルトランスフォーメーション(3)税務当局のキャパシティビルディング取り上げられている。2021年10月に約140の国・地域による議論の場であるOECD/G20BEPS包摂的枠組み(Inclusive Framework:IF)において国際的合意(コラム1参照)が成立して以降、OECD租税委員会を中心にその具体化に向けた作業が進められている。このうち、特に第1の柱については、従来の国際課税のルールを大きく変えるものであり、当初設定されたスケジュールの再調整が行われた。二つの柱からなるこの解決策に効果的に対処するためには、一国の取組だけではなく、各国が協調して対処していくことが必要である。2019年のFTA本会合において、納税者による自主的義務履行と事後調査に過度に依存した税務行政の限界と、経済のデジタル化に即した税務行政の在り方を検討すべきとの認識が共有された。これを踏まえ、2019年以降のFTAの作業計画では、税務行政のデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けたプロジェクトである「Tax Administration 3.0」(コラム2参照)が重要課題として位置づけられている。新型コロナウイルス感染症対策により、従来の実地調査が困難になったこと、リモートワークが増えたこと等から、税務行政においてもデジタル化を進めることがより一層重要な課題となった。これまでも税務当局は業務効率の改善と納税者サービス水準の向上の両立という課題に直面しており、FTAにおいても、税務当局による納税者へのサービス提供のあり方や税務行政の効率化に向けた各国の取組について情報共有が行われてきた。DXによって税務当局・納税者双方のコストが削減されることにより、納税者サービスの向上を図ると同時に納税者自身の自発的なコンプライアンス活動にもつながることが期待されている。上述のとおり、税務当局間の協力がさらに重要となってきていることから、途上国の当局に対するキャパシティビルディングについても重要な課題の一つとなっている。特に、二つの柱の解決策の執行に向けては国際協力が必須であり、その新しい制度の複雑さから、先(コラム1) 経済のデジタル化に伴い生じる 課税上の課題に対応するための二つの柱の解決策

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