ファイナンス 2023年1月号 No.686
20/96

4世界銀行・IMF合同開発委員会(2022年10月14日)世界銀行・IMF合同開発委員会*5においては、世界全体が複合的な危機に直面し、各国の財政事情が悪化する中での(1)食料・エネルギー危機への対応や、(2)気候変動対策推進の方法について議論が行われた。なお、通例発出している「開発委員会コミュニケ」に関しては、各国の意見の合意に至らず、前回4月の開発委員会に続き、史上2度目の議長声明としての発表となった。*5) 開発をめぐる諸問題について、世界銀行・IMFに勧告および報告を行うことを目的として1974年に設立。以降、春・秋の年2回開催。今回は第106*6) 日本国ステートメント発表時の名称。その後、The Pandemic Fundに名称変更。回目。 15 ファイナンス 2023 Jan.日本国ステートメントにおいては、冒頭、ロシアによるウクライナ侵略を非難するとともに、ウクライナ侵略の長期化への対応やCOVID-19や気候変動、債務問題への対応等、様々な危機が複合的に重なる中、世界銀行グループをはじめとする国際金融機関(IFIs)を中核とする連携を通じた開発支援の意義や、国際社会が一丸となって対応する必要性を訴えた。ウクライナへの支援に関しては、各国が効果的・効率的な支援を行うため、世界銀行グループが中心となり、支援の枠組みを作ることが重要であることを述べた。また、世界銀行が設立する「ウクライナ復旧・復興支援基金(URTF)」への早期拠出、及び多数国間投資保証機関(MIGA)が設立予定のウクライナ支援を目的とした信託基金に対する拠出を検討している旨を表明した。ウクライナ危機と共に複合的な危機を織りなす、地球規模の課題に関しては、国際保健、教育、エネルギー・食料問題、気候変動問題、債務問題について、それぞれ日本のスタンスと、世界銀行グループへの期待を述べた。国際保健については、強靱で持続可能な国際保健システムの構築のため、(1)資金ギャップへの対処、(2)財務・保健関係者間の一層の連携強化、(3)保健危機が発生した際の対応が重要であることを指摘した。特に、資金ギャップへの対処を行うための、新たな資金メカニズムである「パンデミックに対する予防、備え及び対応のための金融仲介基金(PPR FIF)*6」に対し、合計50百万ドルの貢献を行うことを表明した。教育に関しては、学習機会の喪失が引き起こす様々な開発課題への悪影響に対して、多面的なアプローチを行う必要性を述べた。また、世界銀行グループに対して、デジタル技術の活用など、教育分野における支援のモデルケースの形成に期待する旨を述べた。エネルギー・食料問題に関しては、短期的な対応のみならず、中長期的な開発効果も重視して世界銀行グループが検討を行っていることを高く評価すると共に、国際金融公社(IFC)を含む世界銀行グループに対して合計20百万ドルを拠出し、中長期的な途上国の食料生産能力の向上、サプライチェーン強化に貢献する旨を表明した。気候変動問題への対応として、中所得国も含め、各国それぞれの事情を踏まえ、移行燃料としての天然ガスの活用等も通じて、野心的かつ現実的なクリーンエネルギーへの移行の道筋を構築することの重要性を指摘した。加えて、その道筋においては、世界銀行グループが策定する国別気候・開発報告書(CCDR)が中核的役割を果たすことを期待する旨を述べた。また、気候変動への適応の観点から、防災や自然災害への強靱性を増すために、信託基金を通じた支援を引き続き展開する意向を示した。債務問題に関し、低所得国については、債権者委員会が「共通枠組」の下で迅速に債務措置を実施すること、脆弱な中所得国については、当該国自身による改革努力を前提としつつも、民間を含む全債権者とドナーが債務持続可能性の回復にむけ協調して取り組むことが必要であることを述べた。また、平時から債務データの透明性・正確性を高める取組や、債務透明性に係る分析や能力構築支援といった、未然に債務危機を防ぐための世界銀行の取組を評価すると共に、途上国が効率的に債務データの透明性・正確性を確保できるよう、債権国が債権データをIMF・世界銀行に共有することの重要性を呼びかけた。加えて、途上国の債務持続性の回復と安定的な経済成長の実現を図るうえでは、債務措置に加えて世界銀行グループを始めとする国際開発金融機関(MDBs)が新たな開発資金ニーズに応えることが不可欠である旨強調した。

元のページ  ../index.html#20

このブックを見る