自治体では全国初、公道を定常運行する自動運転バス「さかいアルマ」 ファイナンス 2022 Dec. 51さらに隈研吾建築群の他にもスポーツ施設や子育て施設、公園、シェアオフィスなどを数多くの拠点を整備しています。これだけ施設を作ると負債が増え、ハコモノ行政として首長はリコールされてしまうでしょうが、境町では借金を返済しながら新しい拠点を建設することに成功しました。これを実現しているのが「境町モデル」による施設設置と運営です。「境町モデル」では、施設の建設にあたり拠点整備交付金などの補助金を活用して、町財政の負担をなるべく減らす工夫をしています。境町の隈研吾建築の一つで、令和元年に完成した地場産品の研究開発施設「S-Lab」も補助金を活用して作られた施設です。「S-Lab」は特産品の研究開発施設であり、ここで町の新しい特産品として開発された干し芋が、ふるさと納税で大変人気を得て現在では年間2億円の寄付を頂ける大ヒット商品になっています。町が投資して設立した施設が、雇用や働き先を創出する場となり、そこで生まれた産品が新しい収入源となるという地域経済の活性化を生み出すことができました。多くの場合、この経済効果が生まれた、という所で良しとして終わりになりがちです。「境町モデル」ではそこで終わらず、その先も投資を回収する仕組みを作りました。「S-Lab」もそうですが、町の公共施設は民間の事業者に入ってもらい、家賃を頂いています。さらに施設の運用管理費はこの民間事業者が負担するため、町の費用負担は0円で施設が運営できています。運用費を0円に抑え、建築費用は補助金をできるだけ活用、町が負担した残りの建設費用は家賃で回収する。この「境町モデル」で施設を運営すると、10年~15年かけて建築資金を回収した後は、そのまま町への収入になり、プラスになっていく仕組みです。投資を回収するのは、企業であれば普通の考え方です。これまでの取り組みを通じて、自治体も企業と同様に、リサーチやマーケティングなどをしっかりと行い、自治体をマネジメントすることが必要だと感じています。そうすることで、財政難や人口減少など、地方の抱える課題を解決し住み続けられるまちが実現可能になると考えています。境町が自動運転バスを導入したのは、高齢者や交通弱者を助けるために、今すぐ導入できる仕組みだったから、シンプルにそれだけです。自治体が新しい事を始めるのには、予算や採算性、安全性など高いハードルを越えなければなりません。それでも今必要だからすぐやるべき、と思い導入を決めました。それと同時に、同じように公共交通の課題に悩む自治体が、境町のような小さな町ができるなら、うちでもできるのでは、と、先行踏襲や横並びで、導入しやすくなれば、とも考えています。ここで注意が必要なのですが、新しいことを始めるには「説明責任(アカウンタビリティ)を果たすこと」が重要です。今ある課題を解決するには、今、素早く着手するべきですが、それ以上に議会や住民の合意形成を図るため、説明責任をしっかり果たす必要があります。全員の理解を得て、住民や議会、行政が同じ方向を見ることで、スピード感をもって政策を実現することが可能になるのです。3. 自治体に必要なのはスピード感と説明責任(アカウンタビリティ)財政指数や人口動態、ふるさと納税の寄付額などの数値でみても、境町のさまざまな取り組みが効果を発揮していることが解ると思います。これらの実績を評価していただいたのか、今、境町へ訪れる視察団が増えてきています。中でも視察先として一番注目されているのが、自動運転バスの公道定常運行です。自治体では全国初の取り組みとなるため、視察や取材、バスファンなどが全国から連日、自動運転バスのために境町を訪れるようになりました。境町
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