*2) AのB弾力性とは、Bが1%変化したときにAが何%変化するかを示す値です。オンラインでの講演の様子 ファイナンス 2022 Dec. 47PRI Open Campus ~財務総研の研究・交流活動紹介~ 14件が等しければ、所得が相対的に高い者の負担率がそうでない者よりも大きくなることが分かります。それでは、実際の公共財は正常財なのでしょうか。換言すれば、公共財への支払い意思額は所得とともに大きくなるのでしょうか。例えば、國光(2007)や渡辺ほか(2004)は、仮想的市場評価法という、アンケート調査によって得られた情報を解析する方法を用いて、公園に対する支払い意思額を推定しています。何れの研究でも、所得水準は支払い意思額に対して統計的に有意な正の効果を示しています。一方、Tyllianakis and Skuras(2016)は、河川や湖の水質向上に対する支払い意思額を分析していますが、ここでも統計的に有意な正の効果が確認されています。つまり、これらの研究に限れば、支払い意思額は所得とともに大きくなることが示されています。上記では、所得が大きくなればリンダール解における負担率も大きくなることが示されましたが、必ずしも所得が大きくなれば所得に対する負担の比率が大きくなる、つまり、負担構造が累進的になるとは示されていません。Snow and Warren(1983)は、このリンダール解における累進構造に関して理論的な考察をしています。彼らは、所得と負担率(価格)に対する公共財需要の反応度合いの相対的な大きさが負担率の累進構造に影響を与えることを示しています。具体的には、公共財需要の所得弾力性*2の絶対値が公共財需要の価格弾力性の絶対値よりも大きい場合、負担構造が累進的になります。となると、公共サービスに対するこれらの弾力性を推定することで、応益原則に従う場合でも税率構造が累進的になるかどうかを判断することができます。今の基準でいうと粗い分析になりますが、Borcherding and Deaton(1972)は、米国の教育、高速道路、病院、警察、消防、公園、公衆衛生といった各種公共サービスに関して、所得弾力性と価格弾力性を推定しています。全てに対してではありませんが、少なくない公共サービスに関して、所得弾力性は価格弾力性よりも絶対値で大きく推定されています。また、これも米国の研究ですが、Bergstrom et al.(1982)は、マイクロデータを使用して、教育サービスに対する弾力性を推定しています。必ずしも統計的に有意な結果ではありませんが、ここでも所得弾力性が価格弾力性よりも大きく推定されています。これらの結果からは、応益4原則に従う場合でも所得に応じて負担が増加し、時には、税率が累進構造になりうることが理解できます。しかし、この議論は公共サービスの負担に関するもので、弱者救済等の再配分に関するものではありません。それでは、再配分の為の財源負担は応益原則をもって考えることができるでしょうか。ジョン・スチュアート・ミルは「できない」としています。多くの財政学の教科書も、この考えに従って、再分配の財源負担は応益原則ではなく、応能原則に基づく必要があると説いています。応能原則の基礎となる議論に「犠牲説」と呼ばれるものがあります。犠牲説には幾つかの種類があって、一番古い議論とされているのが先ほどのミルによる「均等犠牲説」です。これは「絶対犠牲説」とも呼ばれますが、そこでは、現状の所得に課税することによって3.2 応益原則の下での累進構造4.再分配と応益原則4.1 犠牲説と応能原則
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