*1) このリンダール解では各人の公共財の負担率(税率)と公共財の限界便益は一致していますから、等式「個人iの負担率=個人iの限界便益」を得ます。負担率を全員分足し上げると1となりますから、「1=Σ個人iの限界便益」となり、リンダール解では公共財の限界費用(1)と社会的限界便益(Σ個人iの限界便益)が等しいという公共財の最適供給を示すサミュエルソン条件が成立していることが分かります。 46 ファイナンス 2022 Dec.購入します。2杯目の便益が、例えば120円分に下がったとしても、まだ20円の得なので、2杯目も買います。一方、1杯余計に飲むことの便益(限界便益)が100円より低くなれば、その時点で飲むことを止める筈です。つまり、価格と限界便益が等しくなるまで消費を続けることになりますから、縦軸で限界便益を表すグラフは、横軸で需要を表す需要関数になります。また、限界便益は「最大支払い意思額」、つまり、追加の1杯に対して最大限いくらまで払って良いかを表す値でもあります。追加で1杯飲むことによって130円相当の便益が得られるのであれば、その対価として当然130円までは払って良いと思うはずです。つまり、図1の右下がりのグラフの高さは、そもそも限界便益を表しているのですが、それは同時に最大支払い意思額も表していると解釈できます。リンダールは、公共財の最適な供給水準を達成するメカニズムについて考えました。ここでは、既述のビールを公共財に、ビールの価格を公共財の負担率(公共財供給に必要な費用のうち当該個人が負担する割合)に置き換えて考えて下さい。ここで、図1の縦軸は公共財の限界便益(支払い意思額)を、横軸は任意の負担率の下で需要される公共財の数量(公共財の需要量)を測ることになります。リンダールは次のような手順をとると公共財は最適に供給されると説きました。(1)先ず、全員からの税収によって丁度公共財の総費用が賄えるよう、各人の負担率を提示します。公共財の限界費用(公共財を1単位追加的に供給することにかかる費用)を1と仮定すると、各人の負担率は各人が直面している公共財の価格になります。(2)次に、その各々異なった負担率の下で、各個人が欲しいと思う公共財の数量(=公共財の需要量)を表明させます。この需要量では、各人についての負担率(公共財の価格)と公共財の限界便益が等しくなっています。しかし、ここでは各人の公共財の需要量は異なるでしょうから、(3)最後に、各人の公共財の需要量が同一になるように各人に提示している負担率をそれぞれ変化させます。そして、この調整後の各人の負担率と公共財の需要量の組み合わせが「リンダール解」と呼ばれます。このリンダール解で与えられる公共財の数量は最適になります*1。そして、この最適な数量でも、各人の公共財の負担率と公共財の限界便益は一致していますから、公共財の限界便益(=支払い意思額)が高い個人ほど負担が大きくなり、応益原則に沿った負担が行われることになります。なお、ここでは総便益に応じて総負担(税額)をバランスさせるのでは無く、現在の消費量から1単位増えるときの便益(限界便益)とそれによる追加的な負担(負担率)をバランスさせている点に留意して下さい。応益原則と応能原則が対立するかどうかについては、所得水準が限界便益もしくは支払い意思額に影響を与えるかどうかが重要です。経済学的な言葉を使うと、財需要における「所得効果」の問題です。所得が増えると需要も増える財は「正常財」と呼ばれますが、ある財が正常財ならば、所得が増加すると所与の消費量からの限界便益は増加し、支払い意思額も大きくなります。この場合、図1の右下りのグラフは上方にシフトします。また、リンダール解では限界便益と負担率は一致しますから、所得の増加によってリンダール解における負担率も大きくなります。例えば、所得を含めた何もかもが同一のAとBの2人だけから成る社会を考えましょう。当然、この2人の公共財の需要関数も同一になり、リンダール解での負担率も0.5で等しくなります。ここで、Aだけの所得が増えたとしましょう。公共財が正常財である場合、つまり、その需要に正の所得効果がある場合、図1では同じ位置にあったAとBのグラフのうちAのものだけ上方に移動します。その結果、新しいリンダール解では、Aの負担率は増加し0.5超になり、Bの負担率は減少し0.5未満になります。すなわち、他の条2.3 リンダール・メカニズム3.応益原則から応能原則へ3.1 所得効果
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