ファイナンス 2022年12月号 No.685
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僕には、もっとも大切にしている言葉がありファイナンス 2022 Dec. 1財務省広報誌「ファイナンス」はこちらからご覧いただけます。ます。“一所懸命”。この言葉は、いまはなき小学生の担任の先生が常々語っていた言葉です。一つに生まれるではなく、一つに所。一つの所に命を懸けろ! その言葉どおり僕は人生を送ってきたような気がします。世界的に活躍できる日本選手をサポートしたいと活動してきたジュニア強化も、始動から24年が経ちました。その中から錦織圭選手をはじめ、たくさんの選手たちが世界の舞台に羽ばたいています。またジュニアクリニックや、弱い自分を変えたいと願う子どもたちとの合宿などを通じて、子どもたちの抱える心と向き合ってきました。僕はそんな彼らに“一所懸命”を伝え続けています。一所懸命を伝えるうえで大事にしてきたこと、それは“感性”を磨くこと。“なんとなく生きている”たくさんの子どもたちとの出会いの中で感じてきました。“なんとなく、ビミョー、わからない、キレル…”子どもたちが頻繁に使う言葉には彼ら自身、つまり自分がいません。あまりにも情報が氾濫し、ひとつのことに対する集中力を身につけることが難しい。ゲーム脳という問題も指摘されていますが、SNSでコミュニケーションをとる時代になり、人との関わりの中から人に対する思いやりなどを学ぶ機会が失われていく。また少子化も影響し、親が子どもに介入しすぎ、いわゆる過保護の状態となった子どもたちは自分で失敗する機会さえ与えられないのが実情です。子どもたちを取り巻くこんな環境のなかで、助けを求める子どもたちの心の叫びを一時でも早く大人である僕たちが感じていきたい。今の子どもたちは物理的には満たされていても、ひとつの所に命をかける“一所懸命”ということを知らず、精神的に空虚で、物足りなさを感じながら日々を送っているように感じます。“一所懸命”“熱い”という言葉、それは今の子どもたちにとっては格好悪く聞こえるかもしれません。でもひとつのことに没頭することから必ず人生に必要な何かをつかむことが出来ると僕は信じています。“一所懸命”何かにチャレンジしていけば、喜怒哀楽が生まれてくる。これこそ現代の子どもたちが忘れかけているものなのかもしれないと思うのです。喜怒哀楽をたくさん積み重ねることによって感受性が豊かになり、人の痛みがわかる感性豊かな子どもに育つ。多くの喜怒哀楽を感じる機会を通して感性を磨き、そしてそれを自分で人生を切り開いていく力として欲しいと願っています。大人たちも数字で子どもをはかるのではなく、また決して押しつけるのでもなく、子どもたち一人一人が自分の力で勝ちとったものを評価し、他人と比較することなく子どもたち自身が自分という人間を形成していく過程を信じてあげて欲しいと思います。“一所懸命”昨今自分自身に問いかけることが多くなってきました。自分は一所懸命生きているのであろうか? 本気で生きているという背中を見せることができているのであろうか? 過去のことを思うと怒りに変わる、将来のことを考えると不安になる。過去や将来ではなく“今、ここを生きる”ことでこそ自分自身らしくいられるはず。一つの所に命を懸ける! これからも子どもたちに“一所懸命”を伝え続けていきたい。松岡 修造一所懸命を生きる!

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